2011年3月21日 全日本プロレス両国大会PPV観戦記(後編) | プロレスバカなオレの母が認知症になったからってキミには知ったこっちゃないかな?

プロレスバカなオレの母が認知症になったからってキミには知ったこっちゃないかな?

リングパレス育ち、北海道に住む50歳、ファン歴35年のプロレスバカです。
プロレスについてのアレコレやテレビネタ、日常の想いを綴ってます。
そして2016年からは母の認知症についても書き残すことにしました。


(休憩明け、後半戦開始!)

第6試合 スペシャルタッグマッチ 船木誠勝、鈴木みのるvs獣神サンダー・ライガー、永田裕志
ライガー、船木、永田、みのるの順に一人ずつ入場。
この時間でも客席は半分の入り。そのことじたいは寂しいが、鈴木みのるリングイン時の「風になれ」大合唱は人数以上の盛り上がりを感じさせるものだった。

若き日をともに過ごしたライガーと船木の再会。船木と永田は初顔合わせ。鈴木とライガー、永田との因縁。
四人ともに新日本プロレス出身あるいは在籍であるが、闘いの構図は全日本vs新日本という数奇なもの。
船木、鈴木がUWFのファイトスタイルを方向付けた先駆者。ライガーは船木と同時期にUWF移籍を噂されたが新日本にとどまることを選択し現在の地位を己の手で確立した男。永田はそのUWFスタイルを咀嚼したうえで新日本のスタイルへと転換させた男。どこを取っても興味深い顔合わせ。

ピリピリとした空気が漂う。特に鈴木の突っかかり方がいつになく激しい。
細かな技の応酬よりも気持ちのぶつかり合いが記憶に強く刻まれる一戦だった。

フィニッシュは永田が船木をバックドロップで下す、ややあっけない幕切れ。だが勝敗が決した後も鈴木とライガー、永田との間で小競り合いが延々と続く。
このキリがない小競り合いを止めたのが「キレた」船木がリング上に投げ込んだ鉄階段だったというのが、また想像力をくすぐられる。船木という人は普段、ポーカーフェイスでいるだけにキレたときの豹変ぶりには恐ろしいものがある。次を期待させる乱闘だった。


第7試合 世界ジュニア・ヘビー級選手権 【王者】 稔 vs【挑戦者】近藤修司
地震発生時、石巻へ向かう仙石線に乗車していたという近藤。入場時の顔つきはいつになく神妙な面持ちだった。

左ひざ=逆片エビ固め狙いの近藤に対し、左ひじ=ミノル・スペシャル狙いの稔。「スピードと身軽さだけがジュニアの試合ではない」とでも言いたげな両者の闘いぶり。理詰めのオーソドックスな展開の中に現代的な技が融合された、タイトルマッチにふさわしい素晴らしい試合だった。
結果は稔の腕十字に最後まで耐えてギブアップしなかったものの、近藤は無念のレフェリーストップ負け。
両者の負けられないという思い、勝ちたいという執念が、ヒールやベビーフェースなどというものを超越して美しく結実した試合だったと思う。


第8試合 世界タッグ選手権 【王者組】KONO、ジョー・ドーリングvs【挑戦者組】太陽ケア、大森隆男
若くて長身の王者組、ブードゥー・タワーズに対し正規軍にベルトを取り戻したいケアと助っ人・大森。
ほとんど即席に近い挑戦者組がチームとして機能するか否かがひとつのポイントだったがその不安が的中。全日本マット参戦歴の浅い大森が三者のリズムに乗りきれない、かみ合いそうでかみ合いきれない、そんな印象が残った。結局、その大森がドーリングのレボリューション・ボムに沈んだ。

カムバック参戦して以降のドーリングの顔つきが、以前よりも落ち着きを増してグリーンボーイ臭さが抜けているのがいい。KONOも「勝って当然」とでもいうようなふてぶてしさを身にまとって頼もしく思えた。


第9試合 メイン/三冠ヘビー級選手権 【王者】諏訪魔vs【挑戦者】KENSO
ここ最近「絡みづらい」「空気を読まない」と評判だが、言い換えればそれだけ独特の世界を確立させているKENSO。ひと頃の迷いを吹っ切って力強さとたくましさを増した諏訪魔。
正統的なファイトをしていたかと思うと突如として販促攻撃に出るなど、KENSOはこれまでにない変則的なタイプの試合を見せ、対戦相手もファンも彼の立ち位置を図りかねているように思う。

リング上のKENSOからはサイズ以上に大きさ、オーラを感じる。手足の長い体型もあろうが、アメリカWWE、メキシコAAAという世界をひとりで渡り歩いてきた男の成せる技でもあろう。

正直なところ「凡戦」と言える試合だったかもしれない。
序盤に飛び技を連発したKENSOに意外性を感じたものの、目に見える技術的な見せ場は少なかったしハイスパートな攻防も最小限。アッと驚くような現代的な技も無し。

しかし気が付けば、いつの間にかKENSOワールドとも呼べる、突き抜けられそうで寸止めされているようなKENSOだけが持つ波長、リズムに会場内は支配されていた。

この日、諏訪魔のダブルチョップに何度も何度も倒されそうになっても倒れなかったKENSOがリングにいた。
そこには「こんなプロレスラーもいる」「こんな試合もある」「こんな生き方もある」「こんな人生もある」そうしたメッセージが込められていたような気がしてならない。
ただ単に激しい技の応酬だけがプロレスではない。
諏訪魔のラストライドに沈んだものの、まぎれもなく「KENSOの試合」だった。



試合後に防衛を果たした諏訪魔が震災による犠牲者へのお悔やみと、被災者の方々へのお見舞いの言葉を述べた。

その「チャリティーらしさ」もそこそこにいつもの全日本プロレス=闘いへの序章に引き戻された。
ブードゥー・タワーズの二人が現れたのをきっかけに大森、ケア、船木、浜、鈴木、永田(!)と続々と次期シリーズでおこなわれるチャンピオンカーニバル制覇をアピール。
さらには木原リングアナウンサーの代読によるメッセージで秋山準の参戦も明かされた。

「ピンチはチャンス」などと言ってしまうとそれこそ不謹慎と叩かれそうだがこの日を境に、また全日本プロレス・マットに求心力を伴う強力な磁場が生じたように思えた。



久しぶりに全日本プロレスの大会をまるごとPPVで観戦してあらためて感じたのは、全体的にハイスパートな展開が少ないこと。もちろん、要所で大技や派手な技も見られたが、必要最小限に感じた。見ていてヒヤリとするような危険度の高い技も少なかったと思う。
そしてやはり第1試合からメインという流れがしっかり構築されていること。この辺りは社長である武藤敬司の言うところの「パッケージ」という意味、ポリシーが徹底されているのかと思う。

PPV中継の感想としてはカメラの数が少ないためかスイッチワークがうまいのか、新日本プロレスのライブPPVと比べると決定的場面を逃すことがなく、視聴者としては落ち着いて観ていられた。



すべてが終わって全選手が集まり「がんばれ!東北!! STAY STRONG JAPAN」と書かれた横断幕がリング上に広げられた。VMのメンバーもリングに上がった。

ぶっちゃけ、震災チャリティーとはいっても被災地にはPPVを見ている人がどれだけいるか? ましてや生観戦できた人はいるのか? 被災者に伝わるものなのか?
それこそ売名行為、偽善と切って捨てられてしまうとそこで終わってしまう大義名分かもしれない。開催決定そのものにも賛否両論があったろう。
だがしかし、東北巡業に向かう移動中に震災に遭遇し、大げさでなく「死ぬかと思った」という彼らだからこそ、この日に闘う意義と説得力と必然性があったのではないだろうか。
それに今は避難所で不自由な生活を強いられている人たちだけでなく、日本中の多くの人が震災による哀しみを共有している。首都圏在住者であっても両国に行きたくても行けない人たちが多くいただろう。日本人だけでなく世界が日本に救いの手を差し伸べている。

こうしたなか、言葉がいらない、リング上の闘いだけで感動を与えることが可能なプロレスが、心身ともに疲れた人びとに何らかの力が与えられるのではないかとオレは信じている。

だからこの日の大会は大成功だと思う。

観客数は少ないし、メインはわかりづらい内容だったかもしれない。
それでもこの日、会場に駆け付けた観客、PPV観戦した視聴者の誰しもが「観て良かった」と感じたのではないだろうか。

少なくともここに一人、そう感じた男がいます。



 真・ヨソジプロレスバカ日記  もしくは「虎の穴」-110321_202903_ed_ed.jpg


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