目次23、「雌鶏の雄叫び」 | カメラマン 兼 作家の備忘録

カメラマン 兼 作家の備忘録

あの頃まだJekyllから時々Hydeだった、だが今ではもうすっかりハイド時々ジキルなのだ。

 

 スタジオの成果に大満足の俺はホテルへの帰り道、嵐山公園の奥まったところで

散ったばかりの紅葉(モミジ)の葉をゴミ袋に拾い集めた。

 

部屋に入ると黒い背景紙を畳いっぱいに広げその上に拾い集めたモミジの葉を

コントラストが綺麗になる配色で隙間無く散りばめていった。

 

用意が調うとモミジの葉の上に一糸纏わぬ彼女を仰向けで寝かせた。

柔らかい照明に落とされた淡い光に浮かぶ彼女の顔は、まるで深い紅葉の森の中に

迷い込み疲れ果て寝てしまい、月明かりに照らされた森の魔女のように妖しい

雰囲気を醸し出していた。

 

それはまるでルーブル美術館に飾られているポール・ドラローシュの「若き殉教者」

のような、○○の生贄のような表情でカメラのレンズ越に妖しく俺を誘惑する。

 

 

その少女から淑女へ、そして娼婦のように変化する顔の表情にゾックゾクした俺は

禁断のリンゴに触れてみた。

時々目を瞑りながら、時々半開きの唇を舌で濡らしながら妖艶な眼差しで俺を見つめている。

 

自分も知らなかった「自分の魅力」を発掘してくれたカメラマンに身もこころも委ねていた。

 

 俺が幼少期、田舎のじいちゃん家には放し飼いで鶏をいっぱい飼っていた。

祝い事とかあると、決まってじいちゃんはその鶏を家の横を流れる小川のような

水路で捌いていた。

ある日、じいちゃんは庭の鶏を一羽捕まえるとその場で首を捻った。

バタバタッと暴れる鶏の首をまるで雑巾を絞るように締め上げると鶏は目をひん剥き

舌を思いっきり出すと「グェー」と言って絶命したのを思い出した。

 

 まさに今、彼女も目をひん剥き舌を思いっきり出して「あぁ~~~」と叫んで絶頂を迎えた。

 

 

 

待望の第2弾「続・Hyde時々Jekyll」9月1日文芸社より発売


 全国書店にて先行予約受付中