タイトル メリーおばさんのひつじ

公開年

2023年

監督

ジェイソン・アーバー

脚本

ハリー・ボックスリー

主演

メイ・ケリー

制作国

イギリス

 

恐らく世界で一番有名な童謡で、世界で初めてレコードに録音された歌でもある「メリーさんのひつじ」を、ホラー映画化したモノ。と聞くと、あの悪名高き「プー・ユニバース」の一環かと思ったが全然関係ない別作品とのこと。ただ、子供たちに長年愛されている童話や童謡の癒し系キャラクターを、スプラッターヒーローにして映画化するというコンセプトは似ているし、「プー あくまのくまさん」の監督のリース・フレイク=ウォーターフィールドがプロデューサーを務めているので、全く無関係という訳ではないようだ。こいつが絡んでいる事から“取り扱い注意”とこれだけでアラート発令だが、配給はあのアルバトロスという事で “混ぜるな危険”へと変化する。とはいえ、アルバトロスも極稀にだが、大手が手を出さないような良作を配給する事もあるので侮れないが、本作に関しては完全に“混ぜるな危険”だった。

映画の冒頭で中年女性が「メリーさんのひつじ」を若い女性に優しく歌って聞かせるシーンから始まる。普通なら心温まるシーンだが、その若い女性は傷だらけ。中年女は彼女を引きずるように食卓に連れていくが、そこには既に若い男性が同じように傷だらけで座らされている。そこに羊の被り物をした男が現れ、若い男を斧でバラバラにする。若い女は隙を見て逃げ出し家の外に出るが、途中で見つかって羊男に連れ戻され酷い折檻を受けているらしい悲鳴が響き渡す。如何にもホラーテイストのイントロだが、もうこの時点で羊男の正体をばらしているし、この若い女性はその後登場しない。恐らく殺されたのだろうが、彼女のその後は完全にスルーされている。

番組を潰したくないあまり暴走する主人公だけに全然同情できない

 

場面は切り替わり、未解決事件や超常現象を扱うラジオ番組「カルラの迷宮事件簿」の放送場面。パーソナリティーのカルラの冠番組だが、最近古いネタばかり取り扱い、聴取率不足でスポンサーが離れかかっている。プロデューサーから発破をかけられたカルラは、新しい事件を追おうと、今話題のワープウッズの森で行方不明者が続出しているという情報を手に入れ、現地取材で起死回生を図ろうとする。このラジオ局というのが普通の民家のような作りで、スタジオもどう見ても防音などがされていない普通の部屋なので、明らかに制作費が足りなかったのが見て取れる。

カルラは、スタッフを連れてワープウッズへと向かうが、この連中の中には終始イチャイチャしているカップルがいる。美男美女の若者なら華やかさもあるしセクシーさの演出として取り入れられるが、二人ともいい年したおっさんとおばさん。これも多様性か?

どういう訳かこのご一行様、ホテルの予約をしていない。こうした場合、まずホテルを取って従業員や客などから情報を集めるのが鉄則だと思うが、現場に直行している。準備不足がたたったのか、深い森の中で道に迷ってしまった。途方に暮れていたところ、古びた一軒家を見つけ、そこに住むメリーという中年女が現れるが、この女が冒頭に出て来たあの羊男の母親。この家で息子と二人で暮らしているというメリーだったが、その息子が羊男であることは明らかなので、ここで取材クルーたちの運命は決まった様なもの。あとはどれほど華麗に殺してくれるかだけが楽しみとなるが、この殺し方が如何にももっさりとしていて、スラッシャー映画好きにはもやもやする部分が多い。おまけに予算不足で造形や特殊メイクが作れなかったのか、肝心の惨殺シーンははっきり映してくれないという、ストレスがたまる展開。

羊男がいつでもどこでもジャジャジャジャーンと現れるのは、この手の低予算ホラーあるあるだから深く追求しないが、ラストまでこの羊男の正体は不明なまま。中盤あたりでメリーの口から「16歳の時、レイプされて生まれた」と語られるが、それだけになぜ羊の頭をしているのか、そもそもあれは被り物ではないのかなど一切は不明なまま。多分低予算で特殊メイクで作れなかったから被り物に見えるだけで、本当は羊の顔をしているのだろうが、ただ男にレイプされただけで、羊男を生まれないと思うので結局もやもやしたままとなる。

更に終盤にカルラが「あの子を悪魔にしたのはあなたよ!」ともっともらしい事を言うが、その前にまだ証拠が無いのにメリーさん親子を犯人に匂わせるような番組にしようと言っていたカルラが、そんな正論を言ってもちっとも心に響かない。

それに、地元警察が大規模な捜索をしたとニュースで流れていたが、メリーの家は見つからずこのクルーがあっさり見つけたのも謎。何か、超自然的な力で守られているかと思ったら、ラストを見る限りそんな事もないようだ。とにかく見ていると疑問符が次々と湧き上がってくる映画。

「プー あくまのくまさん」は第1作はヒットしたもののRotten Tomatoesではオーディエンスでさえ50%と酷い低評価だったが、2作目「プー あくまのくまさんとじゃあくななかまたち」では、75%と跳ね上がる事に。本作の場合は第1作を下回る驚異の23%。恐らく続編もなく、このもやもやした終わり方のまま、フェードアウトする事だろう。