タイトル 緑の夜

公開年

2023年

監督

ハン・シュアイ

脚本

ハン・シュアイ レイ・シェン

主演

ファン・ビンビン

制作国

中国

 

本作は、人生を懸けた危険な冒険に挑む2人の女の運命を、中国の人気俳優ファン・ビンビンの主演で描いた映画。

ファン・ビンビンと言えば、2018年5月末に、二重契約問題と巨額な脱税疑惑を暴露し、中国の税務当局が調査に乗り出し事件があり、事実上中国の芸能界から干されている状態で、彼女が出演している映画「エア・ストライク」は中国国内では上映中止となった。ただ上映中止となったのは中国だけで、アメリカや日本では再編集版のDVDが発売されている。その後、追徴課税や罰金などで合計8億8000万元の支払いを命じられた。この事件は色々と裏がありそうだが、本作と関係ないので割愛。2022年にはアメリカ映画「355」に出演しているから、本作が復帰作という訳ではないが、本作はオール韓国ロケで使用言語もほぼ韓国語だが、まぎれもない中国映画。だから中国映画界の復帰作となるがなんだかもやもやしたものを感じるのは何故だろう?

この出会いは偶然か?必然だったのか?

 

入国検査の仕事に就く中国人で韓国人と結婚していたジンシャが、虚ろな表情で仕事を淡々とこなす姿から始まる本作。その合間に、仕事中なのに夫からの電話がひっきりなしにかかってくる。この時点で、彼女が幸せな結婚をしていない事が分かる。そこに髪を緑に染めた、ショートカットの若い女がやって来る。センサーは靴に反応したので調べようとすると人を小馬鹿にしたような態度で、靴を脱いだまま立ち去って行った。

主演は中国出身のファン・ビンビンと韓国のイ・ジュヨン。黒髪ロン毛でおとなしいビンビンとショートに緑に染めた髪に活動的なジュヨン。二人の対比が面白い。

その後ジンジャの部屋にやって来た緑の女が、足を洗っている隙に荷物を調べると怪しい薬物らしきものが見つかる。急いで上司に連絡すると、現れたのはいかにもな男二人。緑の女は「あんたの上司は私のボスと繋がっている」といい、二人はその場から逃げる事にする。

緑の女から「この物を売れば3500万ウォンが手に入る」と言われるが、その金額は彼女が永住権を獲得するに十分な金額。かくして二人は、ブツの売人に会う為ソウルに向かうのだった。

本作の着想は、山東省出身のハン・ジュアイ監督が、子供の頃に故郷から多くの女性が韓国に渡り、その後戻ってこなかったことに得たという。監督は「彼女たちは夢や希望を抑圧された末に、あえて戻らぬ道を選んだ」と推測し、それで本作を描こうと思ったとのことだ。

本作は「フェミニズム映画」に分類されるだろう。インタビューから監督も家父長制に反発を抱いている事が伺える。フェミニズムに関していろんな意見があるので、触れるのは避けたいし、映画にとって肝心なのは“面白いか?”であって“立派なメッセージを送っているか”ではない。

序盤の生気のない虚ろな表情で、出入国検査の仕事をするファン・ビンビンにはっとさせられるが、イ・ジョヨンの活気に溢れる姿とは正反対。しかしこの二人は実は似た者同士。そこで二人の逃避行?が始まるが、逃避行に見えて逃避行ではない。むしろ、自分の活路を見出す為の旅なのだが、その過程で様々な犯罪に手を染めてしまう。しかし奇妙な事に二人が追われることはない。これに関して、どのみち彼女たちは男社会に絡めとられ逃げ場がないことを表現した。という解釈もできるが、こうしたリアリティのなさが散見されるのが本作の欠点だろう。まあ、この辺りは監督の演出方針なのだから、とやかくお言うべきではない。

そうしたファンタジーっぽい要素を除くと序盤から張り詰めた空気の中に、絶えず緊張感が持続され映像の美しさもあって、ぐいぐいと引き付けられる。主演二人の外見も性格も好対照なのも、映画を引き立てている。その一方でラストを見ると、対称的に描いた理由は他にもあるようだ。それに関してはラストのネタバレになるし、正直自分でもその解釈でいいのか、迷いがあるので保留としたい。

ラストにジンジャにある変化が訪れるが、その意味するものは?

 

単純に抑圧から逃れたい二人が、その為に生涯最大の冒険に挑み、結局押しつぶされる姿を描いた映画として見るべきだと思う。その姿は切なくて、息苦しく、悲しく、そして美しい。