タイトル ヒッチハイク

公開年

2023年

監督

山田雅史

脚本

宮本武史

主演

大倉空人

制作国

日本

 

 匿名掲示板「2ちゃんねる」のオカルト板スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」(通称:洒落怖)で話題を呼んだ都市伝説を映画化。人里離れた山道でヒッチハイクをした若者たちの恐怖の体験を描いたもの。

元ネタの「ヒッチハイク」は知っていたしかなり面白い話だったので、どう映画化するのか楽しみにしていた。それに、脚本の宮本武史は最近のJホラーの中ではかなりの良作だった「きさらぎ駅」の脚本家でもあったので、割と期待してみたが少々残念な出来になったように思える。

主役っぽく登場するが...

 

オリジナルだと如何にも今どきの無計画な若者が、ヒッチハイクによる日本横断を思いつき、その途中で恐怖の体験をするという話。シンプルな話で聞きやすいし、その後の後日談もあっていい感じに後味の悪い話となっている。映画だと、尺を稼ぐためだろうが、色々話を膨らませる必要がある。「きさらぎ駅」ではあえてもう一度繰り返すという荒業を絶妙にうまくやることで、話を膨らませることに成功していたが、本作では膨らませる方向が間違っているように感じた。

本作最大の功労者の川崎麻世

 

映画はオリジナルキャラの二人の女子大生が、バスに乗り遅れた事からたまたま遭遇したキャンピングカーに乗り込むところから始まる。まず家族構成に異様さを覚えるところは同じだが、元ネタだと、双子は40代のおっさんで二人ともキャンピングカーに乗り込んでいるが、映画では少女に代わっていて乗っているのも一人になっている。その分、異様さは薄れているが、若い女性が40代のおっさんの双子が乗っているキャンピングカーに同乗するのは不自然だし、実写だと異様さよりギャグにしかならないだろうからこの変更は悪くない。その分、少女のキャラがかなり異様になっている。

そしてこの段階で一家が歌をコーラスするが、元ネタだと「ミッキーマウスマーチ」なんだが、さすがに使えないから「おおブレネリ」に変えてあったが、これは悪くなかった。特に川崎麻世が大声で歌う姿は、違和感を通り越して恐怖を感じさせる。本作で一番よかったのは、川崎麻世の怪演で彼がいなかったら相当残念な映画になっていたかもしれない。

その後話は元ネタ同様に、男二人のヒッチハイク旅になる。とある寂れたドライブインで、車が来るのを待っている二人。そこにキャンピングカーが来て乗せてもらおうかと相談するが、健は違和感を覚えたためパスすることにした。しかし和也は初老の男に話しかけられ同行することにした。ここは元ネタ同様に年上の妻ジョセフィーヌで娘は青という名前。冒頭の少女二人と同乗していたのは赤。そして初老の男はジョージ。元ネタだと夫婦の名前に「聖」が入っているが、映画では省略されていた。

その後で異様さに耐えきれず健は車を降りようとするが、何故か和也はノリノリで結局最後まで乗る羽目になる。普通に考えれば、この一家の異様さは明らかなのに何故か一家に合わせようとする和也。その理由は後に明らかになるが、余り納得がいくものではないし、複線もうまく使っていない。

息が白いから冬にロケをしたようだが、相当寒かったんだろうな

 

家についた二人は食事に招待され、ここでもノリノリの和也に引き気味の健という構図が続く。更につまらない寸劇が始まり、尺稼ぎも限界に達したと感じる。

この食事のシーンで、元ネタにはないカニバリズムの要素が入っているが、これはあまりよくないように思える。本格的に描こうと思ったら、R-18は避けられないからだろうが割と生ぬるく描写している。それなら、最初から描かないほうがいいし、このアタオカの一家の生活臭じみたものが出てしまったように感じる。いつの間にか和也はいなくなり、代わって

冒頭に登場した女子大生の1人、涼子が登場。隙を見て二人は脱出する。その際、キャンピングカーで異様な赤ん坊が姿を現すのは元ネタ通り。

ここで、観客は涼子の口から事の顛末が明らかとなる事を期待するが、彼女の口から変態一家の事で、観客が知っている情報以外の事は明らかにされない。もう一人の茜の行方も不明なまま。そうこうしているうちに、ジョージの弟が二人を見つけ襲い掛かるが、和也が現れ何とか逃げることに成功。ここで、和也が茜の恋人だったことが判明。更に茜と涼子が行方不明になったのは3年前だが、涼子によると2,3日しか経っていないと食い違うことになる。

本作一番の問題点は、和也が茜を探しに来たという設定。それにしては準備不足だし、友人を巻き込む理由も分からない。普通に「俺の彼女を探したいが手伝ってくれないか」と言えば済む話だ。それに、和也が早々に退場するのも、竜頭蛇尾に思える。これなら和也を最後まで登場させ茜の行方もはっきりと描くべきだと思う。

その後トイレで変態一家をやり過ごすシーンへと移るが、もうこの時点で元ネタを知っている人は涼子の正体の見当がつくから、大体ラストの予想もついてしまう。それにしても良く分からないのは、途中で健がコンビニの店長に助けられるシーンが挿入されている事。その後の展開とも整合性が取れず、もやもやした感じがする。

変態一家の異様さは十分に楽しめた。特に川崎麻世は大熱演で、一人で物語を引っ張っていたと思う。それだけに、話の膨らませ方さえ間違えなければかなりの傑作になったと思うので、それが残念でならない。

 

なお、オリジナルの「ヒッチハイク」を知らない方は、これで聞く事が出来る。喋りのテンポなどが一番いいと思われるので、興味がある方はどうぞ。

 

 

 

 

また、元ネタの「ヒッチハイク」にはこれまた元ネタがあると言われている。2006年のアメリカホラー映画の「レストストップ デッドアヘッド」。公衆トイレで泣き叫ぶ若い女性が出る所や、キャンピングカーに乗った双子の子供がいる異様な一家。そして、異形の小さな子供がいる所などかなり良く似た設定になっている。ただ、物語の魅力だと日本の洒落怖の方が勝っていると思う。

現在U-NEXTで配信しているので、興味のある方はどうぞ。