白雪姫 (1937年) 監督 デイヴィッド・ハンド 声の出演 アドリアナ・カセロッティ(アメリカ)
グリム兄弟による童話「白雪姫」を原作とする。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作で初の長編映画第1作目であり、世界初の長編アニメーション映画である。
現在でもアニメ史に残る傑作として知られる。
ウォルト・ディズニーは歴史に残る名作にするべく、4年の歳月と170万ドル(2022年の3億5000万ドル)の巨費を投じて制作された大作である。世界初のカラー長編でありながらフルアニメであり、作成されたセル画の枚数は25万枚にも上る。これはスタジオジブリ作品、『「崖の上のポニョ」の17万枚が最多であるから、その労力の凄さがわかるだろう。そうした努力の結果、風になびく衣装の柔らかさや、キャラクターの質感すらも感じさせる動きが実現されている。
これ以降のディズニーの定番
映画の完成にかけるウォルトの情熱を示すエピソードとして、資金難に陥った時、未完成、かつ未編集の映画を自分がアテレコをやって投資家に見せ出資を募った話は有名。そうした情熱を傾け完成。「ディズニーの道楽」と揶揄されながらも公開すると、6100万ドルの大ヒットとなった。日本やドイツの公開は戦後となったが、手塚治虫は後に「本作を50回は見た」と述べている。
映画の冒頭は、この頃のディズニー映画によくみられる、分厚い古風な本を開くところから始まる。
とある城の女王は自分を世界一の美女と信じ、その地位を脅かす継娘で下女のように使っていた白雪姫の成長を恐れていた。
原作だとラストに突然出現する王子だが、本作では序盤に登場し白雪姫の美しさに惹かれ声をかける描写がある。これは物語の整合性を図る意味で、良い改変だった。
冒頭部分に王子と会うシーンが追加されている
女王がいつものように魔法の鏡に「世界で一番美しいのは誰?」と聞くと、鏡は「白雪姫です」と答えてしまう。怒りと怖れから女王は部下の兵士に、白雪姫を森につれていき殺すように命じる。しかし兵士は命令を実行できず白雪姫を逃がしてしまう。
一方の白雪姫は、森で迷った末に動物達に導かれて七人の小人の住む家にたどり着き、家事全般を引き受けることを条件に匿ってもらい、小人たちと共に楽しい一夜を過ごす。ただ一人、「怒りんぼ」だけは白雪姫の事を快く思っておらず、白雪姫も寝る前に「神様。どうか怒りんぼさんと仲良くなれますように」とお願いする。
なお、日本版では「七人の小人」と表現されるが、原作、アニメ共に「The Seven Dwarfs(七人のドワーフ)」だが、当時の日本でドワーフがなじみがないから小人とされたのだろう。豊かな顎髭を生やし、鉱山で働いているところなどドワーフそのものだ。もちろん「ロードオブザリング」のおかげで、現代ではドワーフは良く知られるようになっているから、再録音されることがあったらドワーフになるかもしれない。
「ハイホー、ハイホー。仕事が好き」誰もが一度は聞いたことがある名曲
また、白雪姫が森でさまようシーンの作画のボリュームは半端なく凄い。CGのなかった時代にどうやってこの動きを出したのか、考えるだけで恐ろしい部分も見られる。“恐ろしい”というのは、アニメーターの苦労を考えての事だ。
翌朝。小人たちが仕事に出かける。その時「留守の間は誰も入れるな」と忠告されるが、ささいな事から怪しい物売りの老婆を家に招いてしまう。言うまでもなくこの老婆は継母の女王。白雪姫は女王が与えた毒リンゴを口にしてしまう。異変を察知した動物たちの知らせで、白雪姫に危機が迫っていることを知った小人たちはすぐさま家に引き返し、老婆に化けた女王を退治する。しかし、時すでに遅く、白雪姫は永遠の眠りについていた。というのが粗筋で、この話に関してネタバレも何もないのだが、一応ここで切っておく。
告白すると、この作品を見直す気になったのは、ディズニープラス解約の時期が迫り、とにかく見たものから見ていこうと思ったという、かなり邪な考えからだが、見終わったときは言葉が出なかった。これが85年以上前に作られた作品だと分かっていても、にわかに信じがたい。それぐらい映像、音楽、脚本とどれをとっても時代を感じさせない。
この頃のディズニー作品によくみられるが、ヒロインの心情は綿密に描かれているのに対し、不遇のヒロインの救済者である王子さまは、ほぼ没個性なのが特徴。それでも前半に出番があるだけ、まだましなのだが。ただ、当時の状況を考えれば、そこまで手が回らなかったのだろうし、それ自体映画の質を下げる事にはなっていない。まさにディズニーアニメの原点、いや全てのアニメーション映画にとって原点に間違いない。
ディズニーヴィランの源流