『夢をかなえる片づけ観音さま』 No.3
6月29日(大安) つづき
それは、なんとも不思議な感覚だった。ラグマットはぐんぐんと上にあがっていき、5メートルほど上に浮遊している。
マンションの部屋で5メートルの高さといったら、上の階に侵入しちゃっていることになる。
けど、そうじゃなくて スコーンと抜けた天井にいる感じ。
部屋の中が平面的に見えて、グーグルマップの航空写真を見ているみたい。
「なんか物が多すぎ!」
思わず私は叫ぶ。
「そいでしょ~。もっと何か気づかん?」
「えっ? そうですね…どこも散らかってて、床があんまり見えないです。はぁ~、収納家具も買ったのになぁ。読んだ新聞や週刊誌も見た場所に開いたままだし…。あ~! 弘さん、ゴルフバッグまだ玄関に置きっぱなしだ。リサイクルショップに持っていくって言ってたのにぃ」
「おぉ、ええね、ええね。もう一声!」
亀アロハの観音さまは面白そうに私の横顔を見ながら言う。
「もう一声って…そういえば物が散乱している場所って…集中してるような気が…。洗面所とかリビングとか玄関近くとか、みんながよく使うところがやっぱり物が多いですね」
「そこやそこ~! それがヒント~!!」
観音さまはノリノリの雰囲気で、楽しげにラグマットの上でフラダンスする。
私は今まで気づかなかった、物だらけの状況を見てショックをうけていた。これじゃあ、まるでゴミ屋敷。どこから手をつけていいのやら。弘さんや徹に言っても、ハイハイって言うだけだし…。
仕方ないから片づけやすいようにと思って買った家具が、逆に部屋の邪魔になっている。しかも、収まりきらないで物が溢れかえってるなんて…。
ぼうっと部屋全体を見つめていたら、ふと一点に目がとまる。
「あ、あそこにあったんだぁ! 徹が探し回って見つからなかったゲームのコントローラー」
目を凝らすと、家具の中が透けて見える。それは、徹の勉強机と本棚の間に落ちていた。
「やだぁ。あんなに探しても出てこなかったパールのネックレス、収納ケースじゃなくて黒いコートのポケットに入ってる」
「だんだんわかっちきたねぇ。さすが私が見つけた子だけあるわ。片づかない理由はつまりこういうことね」
観音さまはポケットからゴソゴソと何か取りだす。
10センチぐらいの銀色の小さな棒のようなものだった。手で握って上下にブンっと振ると、それはカチカチッと1メートルほど伸びた。
棒の先にはピンク色のライトがついている。その棒で空中から部屋の中を指しながら、
「ココ、ココ、ココ。この点を結んだ線が久恵ちゃんちの動線なのよ。動線っちいうのはね、毎日この道をよく使って動いてるってこと。この行動パターンがわかれば、片づけがグンと楽になるんよぉ」
観音さまが棒で指したところにピンク色のライトの残像が見えた。
「どうしてそこが動線ってわかるんですか?」
「そりゃ簡単よ。だってほれ、久恵ちゃんが言った通り、指したところに物がだいぶ多いでしょう」
「なるほど…。でもどうして動線がわかると片づけが楽になるんですか?」
「そいはね、ま、具体的に説明するとやね、たとえば今見つけた徹君のゲームのコントローラーやけど、これどこでよく使っとった?」
「テレビでゲームしてるから、リビングかな」
「そなら、リビングにゲームソフトやらコントローラーが入る箱を用意しといてあげれば、バラバラにならんでしょう。
パールのネックレスも、
冠婚葬祭でよく使うんだから、他のアクセサリーと一緒にしないで
冠婚葬祭用に別収納考えればいいんよ。
式服入れてるとこがわかりやすいんと違う? そうそう、それからこん前あんたが探しまわっちょった鍵。あれも動線考えれば無くさないで済むんよ」
私は鍵をしょっちゅう無くす。バッグを変えたときに入れっぱなしにしてるのが原因なんだけど、だいたいどのバッグを使ったかを忘れてしまう。鈴をつけたり、大きなキーホルダーをつけたりしてみたけれど、あまり効果はなかった。
「そうなんですか?」
興味深く、観音さまの顔を見て答えを待つ。
「あんね、つまり、バッグからバッグに移し替えるからわからなくなるんよ。本来鍵は玄関で使うもんでしょう。
そんなら玄関で保管すれば間違いないでしょう。
玄関のドアにマグネット式のフックつけて、帰ってきたらそこに鍵をかける。出かけるときはそこから鍵を持って出る。
そうせば、な~んも探しまわらんでもええがね。
バッグに入れとかなぁいけんハンカチやポケットティッシュなんかも、玄関のドアの近く、たとえば下駄箱の一部を使って保管するスペース作っときゃ、靴いちいち脱いで取りに行かんでも大丈夫でしょう。
面倒くさがり屋の久恵ちゃんにはピッタリの案やと思うよ」
「確かに!」
観音さまスゴイ!
そんな収納の考え方したこともなかった。
尊敬の眼差しで拝むように見ていたら観音さまはさらに
こんな話をした。
「それからな、7:3の法則ってしっとる? これ、意外と知ってるようで知らん子多いんよ」
「7:3の法則?」
「そう。たとえば地球の海と陸の比は7:3。人間の身体の水分比率も7:3。いろんなもんの黄金比みたいなもんやね。
これ、以前な、藤田田君に教えてあげたら、あの子カンがええからぁ大人になって商売にその法則使ったんよ。そしたらあんた、大成功の大儲け!」
「藤田田って誰ですか?」
「あらま、あんた知らんの? 日本○ドナルドの創業者よ。7:3の法則使って考えたサンキューセットっていうのん作って大当たりしたんやから」
「あの…、それが片づけと何か関係あるんですか?」
「この法則をね、家の床面積と家具面積の比にも使うとすごくスッキリするんよ。家ってな、いい気が入ってくるように気の通り道作ってあげることが必なのよ。それを塞ぐとどういうことが起こるか…」
「運が悪くなるですか? 金運が落ちるとか…」
「運ねぇ~。まあ、運はまた他の条件もあるからねぇ。まあ、運よりももっと顕著に現れるンは健康運。ほれ、あんた具合悪くしとったでしょう。そいで、牛久の大仏さんにお祓い来たんじゃなかとね?」
「私、あの時、自分のことだけじゃなくって主人の仕事のことやいろんなことが重なったもんだから…きっとなんか悪いものが憑いてるんじゃないかって思ってお祓いしてもらいに行ったんです」
「そらそら、す~ぐ人のせいにする。久恵ちゃんのクセやね。なんか憑いてるって、そりゃえらい勘違いよ。あんた自身の行いも関係してそうなってるんやから」
納得いかない私の顔を見ながら、観音さまは棒のようなものをまた大きく振って短く縮めながら言った。
「試しに、7:3の法則に従って努力してみなさい。もっとスゴイこと気づくよぉ。そうや、今回の課題これにしよう。自分でいろいろ考えてやりなさい。考えるっちゅうことはえ~ことや。教えてもらってばっかりだったら身につかないからね」
「はぁ。。」
とりあえずあとで検索してみようと思う。
藤田、なんだっけ? 最近そういえば食べに行ってないなあ○ドナルド。
そんなことを考えていたら、ラグマットはゆっくりと降下をし始めた。私たちはリビングの元の位置に戻る。
観音さまはパナマ帽をかぶりなおし、アロハの皺を伸ばしながら、
「それからね、クーラーの説明書探しまわっとったでしょう。解決方法はサービスで、あん、猫ノートに書いとったから後でよ~見んさいね。あ~今日はちょっと長居しすぎたわぁ。頑張るなぁ、私、エライやろぉ、私。ほいじゃぁ、またね」
そう言ってあの金色の鼓を出し、
「はぁ~、スッポン、はぁ~、スッポン…」
とまた言いながらフェードアウトしていった。
猫ノートにはこう記されていた。
1. よく使う説明書はファイリングせずに使う場所の近くに置くこと。クーラーの説明書はクーラーのそば。洗濯機の説明書は洗濯機のそば。レンジの説明書はレンジのそばがよい。
2. 手紙やダイレクトメールは受け取ったらすぐに処理すること。
重要と書かれたものはすぐに封を切り、中身を確認すること。開封した日を封筒に書き込み(右上か左上もしくは中央)、日付順になるよう重ねて保管する。期限があるものは合わせてその期限を封筒に書いておくこと。
3. 自分を褒めることは大切です。
言葉は口から出て耳に戻り脳に記憶されます。マイナス言葉は口にしないようにしましょう。
つづく
最後までお読みいただきありがとうございます。
山口りんか
☆生活お役立ちブログもやっています。
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