日本語学校、学生のために行う新しい取り組みとは。 | 管理職日本語教師の、相当深~いつぶやき。

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私たちの可能性は、こんなもんじゃない。

さて、新しい学校が開校して2か月以上が経ちました。


『新規校には、いい学生は集まらない。各国のエージェントは、まずどうしようもない学生を新規校に押し付けて、どう対応するか見る。』


という都市伝説のようなものを聞いて、こりゃ警察に通う日が来るのかなと、開校前はちょっとビビっていたんですが、


そんな事は全くなかったです。


学生たちは(日本語ができるかどうかは別として、)比較的いい学生が集まったと思います。


「いい学生」と言うのは、

①勉強する気持ちのある学生

②経費思弁的に、そんなに貧乏カツカツではない学生

③学校のル-ルや教師からの指示をよく守る学生

この3つです。


勉強したくな~い、と学校に来ないでうちでゲームしてたり、


お金な~いと、授業は二の次でアルバイトに通いつめてたり、


学校に来ない、電話にも出ないで逃げ回ってて、なかなか捕まえられなかった、


こんな学生は一人もいません。


いい学生がたくさん来てくれた事に感謝して、我々教師も『面白い授業、楽しいクラス!』を心がけています。


また、授業だけでなく、そのほかもいろいろ行ってみた事があります。


新しい学校ですが、何もかも新しく始めるのではなく、前任校で効果のあった事、好評だった事はもちろん続けたい。

でも、慣例を恒例とするのではなく、新しい学校で新しい気持ちでいろいろチャレンジして、よかった事は続けていきたい。


でも予算もマンパワーも限られている。時間も余り余裕がない。

つまり、やりたい事はたくさんあるけど、その中からなにがいいのか、何をやるべきなのか、ぶっちゃけ、まだまだジタバタしてるってことですよ。 


きょうはそのいくつかのジタバタした取り組みを御紹介して、その効果の程を振り返ってみたいと思います。



その1 教務オリエンテーション・警察オリエンテーション


 学生は入学式後、事務のオリエンテーションを受けて、ビザについて、出席率について、アルバイトについてなど、いろいろな学校生活のオリエンテーションを、母語別に各国のスタッフの元で母語で受けます。


 今回はそれに加えて、授業の初日に、クラスごとではなく、まずは母語別に教室に集合して、教務のオリエンテーション、そして警察から留学生担当の方に来ていただいて、留学生専用のDVDを使っての母語での犯罪についてのオリエンテーションをすることにしました。

 

 話をするのは私。通訳するのは各国のスタッフ。

(1) 教務オリエンテーション

 たとえば・・・。


○3大原則。学校を休まない、遅刻しない、宿題は必ずしてくること。これを最初に「絶対!」と言い渡す。

 *どうしても病気などで休まなければならないときは、必ず学校に電話する、ということも「絶対!」です。


○持ち物の確認 ノート3冊、鉛筆、赤ペン、テキスト類)とその使い方。

 *学校で大量購入して、事務所で安く販売していることも。


○2年間いつまでに何をするか。(2年終わった後何をするのか?大学か?専門学 校か?帰国か?そのために何が必要で、それを手に入れるために、逆算して、いつまでに何をしなければならないのか?)

 また、進学のためのお金、いつまでにいくら必要か?それは日本で、週28時間のアルバイトで稼ぐことは不可能なので、今から国のお父さんに電話して、用意しといてもらうように。などなど・・・。


○評価の仕方。どんなテストがどんな形であるのか?毎日の小テストから、定期テスト、漢字テスト、期末テスト。これらのテストは再テストでも60%下回る場合はクラス落ち。でもそうなったら上記の進学には間に合わないから、帰国するしかないよ。などなど・・・。


○アルバイトの紹介。希望者には学校に各社から問い合わせ(求人)が来ている場合のみ紹介しますが、出席率が低い人、成績が悪い人には紹介しません。などなど・・・。


こんなことを通訳を交えて、90分で説明しました。


結果は・・・


 入学して2か月が過ぎましたが、7割近くの人が出席率100%を、9割以上の学生が90%を維持しています。無断欠席した人は今まで誰もいません。宿題は毎日出ますが、ほとんど全員やってきます。(忘れたら放課後残ってやらなければなりませんが、残されている人はいません。)

 まあ、入学したばかりですし、まだ気持ちもピカピカだと思いますので、当たり前かもしれませんが。

 でも初めての試み「教務オリエンテーション」は、まあまあ「効果あり」だと思います。


(2)警察オリエンテーション

 警視庁の担当の方に来ていただいて、外国人が巻き込まれやすい犯罪や、気が付かないうちにやってしまいやすいマナー違反やルール違反(電車内の携帯電話や自転車の乗りかた、水商売のアルバイトなど)について、DVDを見せながら解説。

結果は・・・

 さすがに警視庁が作っただけあって、身近な起こりやすい事例を取り上げてあって、学生も興味津々で見ていました。犯罪など起こす気はないのに、気が付いたら巻き込まれている例も上げてあって、日本での生活を始めた彼らにとっては、さぞ気持ちが引き締まった事だと思います。DVDは英語訳と中国語訳のものをご用意いただきました。また、スリランカの学生のために、英語通訳の方に来ていただきました。

ただ、できればベトナム語訳のDVDも作ってほしかった。とにかく、日本へ来たばかりの時だからこそ、やってよかったオリエンテーションだと思います。(ちなみにDVDに出演していた案内役の俳優さんは、あの有名な某テキストのDVDにも登場するミラーさんでした。ミラーさん、大忙し。)

その2  JLPT受験


 学生は、来年の12月には、JLPTN2レベルにならないと、就職の望める専門学校への進学は難しい。

 逆算すると、今年の12月の試験でN4レベルに達しないと、年明けから、大学受験組も専門学校進学組も、就職希望組も、かなりしんどい事になる。


 という事を、その1の「教務オリエン」で話をし、

「ね?間に合わないでしょう。だったら、この7月に持っていない人は全員N5を受けなさい。」

と、受験必須に持っていこうとしたのですが・・・。


結果は・・・


 まず、中国の学生から、

「中国人にとってN5、N4は資格取っても無駄。だから受けたくない」

と反発をくらい、


 次に非漢字圏の学生から

「来たばかりでお金に不安があるときに、学校は更に5500円のお金を使わせようとしている。」

と反発にあい、


あげくの果てに、国のエージェントから

「そちらの学校は、JLPTの会社からいくらもらってるんですか?」

と、言われる始末。


仕方がないので、試験の重要性をもう一度説明したうえで、希望者だけ受験に変更しました。

(こうすると、できる学生、計画性のある学生は受験しますが、教師が、この子こそ受験でもして緊張感を高めてほしいと思っている、早くしないと間に合わないよ!と危機感を募らせている学生ほど、後回しにして受験しないんですよね。で。来年になって無資格なのに「先生、専門学校行きた~い。」と泣きついてくる事になる。)


まあ、最終的には自己責任ですから(といって逃げたくはないのですが・・)。

こちらは、後々の学生のためを思って受けさせようと思ったのですが、通じなかったです。

まぁ、何人かの学生が受験して、N5やN4が取れたら、それでまた学校全体の空気が変わってくると思います。

年末のJLPTは待ったなしですので、この時は全員N4クリア(だめだったら卒業後は帰国)ということを今から刷り込んで行きたいと思います。



その3 課外授業


(1)入学後2週間たった時、天気のいい日に2コマ潰して、歩いて20分の有名な某天神様(学問の神様として全国的に有名)へ全員でお参りに行きました。


(2)すみだ水族館へ、団体チケットを購入して行きました。


結果は・・・


(1)は、ちょうとお祭りをやっていて、、たくさんの人で若干混雑していたので、お参りをしている人は少なかったのですが、みんな神社のしきたりにのっとって入場し、絵馬を購入して書いたり、猿回しを見て楽しんだり、屋台の食べ物を楽しんだり、結構それぞれ楽しんでいました。


無料だし、近所だし、お散歩のように気軽に行けたし、町を知る上でも、よかったと思います。


(2)は、国籍によって反応が違いました。中国の奥地の海がない地域から来た学生は、さぞ珍しがって楽しんでくれるだろうと思っていたら、全てをさ~っと通りすぎるだけ。早く帰りましょうと言い出す始末でした。逆にスリランカの学生は、海に囲まれた国なので、水族館なんか珍しくないかと思っていたら、全ての水槽の前で写真を撮り、興味深々で楽しんでくれていました。


まあまあでしたが、団体チケット1850円の割にコストパフォーマンスが・・・。すみだ水族館は、水族館の中では小さい方だと思うので、展示が少なくて、すぐに見終わってしまうというのもちょっと残念。だったら480円の上野動物園にしておけば、コスパもまあまあかと。来年はやめときます。


その4 会話サロン


 これは、私の前任校でやっていた、昼休みに希望者だけ空き教室に集まり、1グループ6~7人と教師一人で、机を取っ払って円座になって座り、ただおしゃべりするというもの。教師はどちらかと言うと司会進行役。学生の会話が弾むように、黒子に徹する。

 会話の内容 例)

日本の生活→アルバイト→アルバイトのいいところ、大変なところ→知り合いになった日本人→日本へ来て驚いた事・・・


と、我々が普段友だちとかとおしゃべりする時と全く同じように、一人の学生が話した事について、意見や感想、そこから次の話のネタをつかんで、またそれについておしゃべり・・という感じ。


結果は・・・


 大変好評で、順番待ち状態。みんな初級でまだまだ会話は下手ですが、話したい事はたくさんあるようです。


その5 放課後の補習


 空き教室を使って、テーマを決めて補習。

 例えば、「今日はL7~L10の漢字をやります」とインフォメをしたら、やりたい人だけ集まってきたり、テストの前の日に「明日のテストの範囲を復習しますよ。」といったら、自信のない人がぞろぞろ集まってきたり。初級2クラスに声をかけて、たいてい5人~10人集まります。


 結果は・・・


 すみません、まだテストの点に反映されるほどの結果は出ていません。悪いのはずっと悪いまんまで抜け出せずにいる人も。(このレベルは個人指導でないとだめかもしれないと教師側も思い始めている今日この頃。)でも学生の勉強の意欲は折らないで大切にしたい。とにかくもうしばらく続けてみます。


 こんな感じでやってます。


 この後、予定しているのは、

 ・学期休み中の今度の7月のJLPT直前対策。

 ・今週末の、ベトナムフェア参加。


 やってみてはどうかと構想中なのが、

 ・ベーべキュー大会

 ・球技大会

 ・クリスマスパーティー

 ・防災館で地震体験

 ・富士山(の近く)へ旅行

 ・飛行機の整備工場見学


 とにかく、ジタバタしてます。


 まだ、学生は全員初級なので、中級に上がったら、博物館や国会議事堂などもいいと思います。


 授業以外のいろいろな事。

 これらは、学生にとっていい思い出を作るため・・・なんて青臭いだけの理由ではありません。


 学校の外でいろいろ体験させて、いろいろ心を動かして感じた中から、日本への興味がわき、もっと見聞を深めたいという欲が出て、行動範囲が広がり、日本でやりたい事が見つかり、高等教育機関への志望理由が見つかる。


 これを狙っているわけです。(前任校では受験の時に大変役に立ちました。)


だって、例えば進学や就職の面接で、

「日本でどこか行きましたか?そこで感じた事を話してください。」

とか聞かれますよね。その時に、

「アルバイトしか行った事がありません。」

なんて答えたら、

「この人、本当に日本に興味あるの?」

って思われて、どんなに日本語の点が良くても、落ちますよ。


 もちろん、課外授業も引率して連れて行っただけではだめです。これらを実行する間にもいろいろ仕掛けを作らねば。

 

 とにかく・・・、

 

 まだまだ始まったばっかりの学校。まだまだ手探り状態。


 教職員全員、ああでもないこうでもない、これがいい、あればいいと知恵を出し合っています。


 さてさて、どうなりますか。


 ところであなたの学校は、なんか新しい事をやろうと、教職員全員でジタバタしてますか?