クラスの中で起こる「負のスパイラル」
自分でどんなに頑張って授業をしていても、どんどん深みにはまっていくような。
養成講座の実習でやっていたように、時間通りにさくさく教案をこなしたいのに、思うように進まない。
終わった後、後味の悪さだけが残る。
こんな思いを繰り返して、でも相談する人いなくて、夢破れて・・・。
こんなはずじゃなかった。
こんな思い、していませんか?
たとえば・・・。
どんなに努力しても、どんなに徹夜して教案を考えていっても、クラスの雰囲気は変わらない。
なんか、学生の食いつき悪いし、やる気なさそう。
寝てるし、携帯いじってるし、母語で話してるし。
こっち見てる学生は半分ぐらい。
声がかれるほど、一生懸命大きい声を出しているのに、明らかに他の世界へ行っている学生もいる。
簡単な問題なんだから、絶対わかってるはずなのに、誰も質問に答えてくれない。無視。
静かにぼ~っと他の世界へ行っているのは、まだまし。
いくら注意しても止めないその母語私語、何とかしてほしい。
そして最後は、教師がモグラたたき状態で、「話すのはやめなさい!」「電話はしまいなさい!」「こちらを向きなさい!」と注意をギャンギャン繰り返し、授業が終わる。
この繰り返し。
私は学生に好かれてないんだ。
そんなに嫌な先生なのかな。
だって、いうこと聞かなかったら、怒るの当たり前じゃん。
みんながいうこと聞いてくれたら、きっと楽しい授業になるのに。
いったい何しに日本へ来たんだよ。
勉強しに来たんだったら、ちゃんということ聞けよ。
だいたい学校も学校だよ。
なんであんな勉強する気がない学生を集めてくるんだよ。
給料安いくせに、教師にばっかり負担が増えるし。
だったらせめて、もうちょっと勉強する気ある学生を集めてきたらどうなんだよ。
せっかく教案を一生懸命考えていっても、教え甲斐なんてないじゃん。
外国人なんか、大っ嫌い。
日本に来るな!
どうせお前ら、働きに来たんだろ?
勉強する気なんかないんだろ?
ふん、貧乏だから日本に稼ぎに来たんだ。
留学生ビザもらってるくせに、勉強しない外国人は、全部日本から追い出せ!
~・~・~・~・~・~
ぐるぐる頭の中を洗濯機状態にして、こんな思いに陥ってませんか?
そしてかわいかったはずの学生が、かわいくなくなってくる。
会うのが嫌になってくる。
自分がこの仕事に向いてないんじゃないかと思えてくる。
これぞクラスレッスンの「負のスパイラル」。
特に最近、非漢字圏の学生が増えてきて、しかもクラス全員が同じ国だったりなんかすると、もう人数で負けてしまうから、母語私語が止まらなかったり、注意を聞いてもらえなかったりして、余計にこんなカオスに陥りやすくなるかもしれないね。
そりゃ、こうなったらこの仕事を辞めていく新人教師が多くなるのも、仕方のないことでしょう。
じゃ、この状態を少しでも良くするために、何が必要か?
・・・う~ん、難しい。
何から話していいのか。
いっぱいチェックポイントがあるので・・。
全部書いてたら、また5000字ぐら軽く超えてしまって、「長~えよ」と文句を言われてしまいそうですが。
たとえば、私が気を付けていたポイントをいくつかご紹介しますが。
まず、一番最初教室に入っていくとき、とびきりの「営業スマイル」してますか?
私はいつも「教員室は楽屋。そして教室は舞台。」と言っていました。
教員室では、「疲れた。」「なんでこうなるのよ!」「汚い字!」などと、マイナス発言が飛び交ってても、一歩そこをでたら、お客様に見られる場所なので、「営業スマイル」。
そして、教室に行くときは、とびきりの営業スマイルで、大きな声で「おはようございま~す。」
特に食いつきの悪い、ついて来させにくい、俗に言う「重いクラス」ほど、NHKの歌のお兄さんお姉さんばりのスマイルと声で、「元気ですか~?」と、テンションあげていかなければならない。
私は、やりにくいクラスほど、3倍テンションをあげてた。
だから終わった後の疲労感もハンパなかった。
だからカロリーも普通のクラスの3倍減ってたはず。
特に非漢字圏のクラスは、そうだった。
やりにくい、というか、クラス全体が重いのね。
なんというか、打てば響くの反対。
だから、ついてこさせるのに、常にテンションは高かった。
その割に痩せなかったけど(笑)。
次に、始まりのあいさつ。
まず、全員こちらを向かせる。
その時に3秒で全員の目を見る。
クラスが25人いても、40人いても、全員のこちらをむいた目と自分の視線を合わせる。
3秒で。
もしその時、こちらを向いていない学生がいたら、手を振る。NHKのお姉さんみたいなバリバリの笑顔で。
それでも気が付いてもらえなかったら、「●●さ~ん」と手を振り続ける。
そして全員こちらを向いたことを確認してから、あいさつ。
「よろしくお願いします」でも「こんにちは」でもなんでもいい。
ただし、全員唱和。
全員こっちを向かせて、全員できっちり揃えてコーラス。
要は、始業時に空気を変えること。
コンサートの始まりと同じ。
休み時間とは違う時間が始まったんだ、と、全員が体で感じなければならない。
先生がなんとな~く入ってきて
「は~い、おはようございま~す。は~いすわって~。出席とるよ~。●●さん・・・▽▽さん・・・こ~ら、静かにして~。」
こんな感じで、まだ学生がざわざわして、休み時間気分の中で、なんとな~くなし崩しに授業を始めてないですか?
中には、先生が来たことにも気づいてない学生がいたりして(笑)
そして、出席をとり終わったら、私は毎回ちょっと雑談する。元気?とか天気のこととか暑いとか寒いとか、そんなこと。
笑いもとる。
そしてみんなの意識がこちらに集中し始めたのを見て、
「はい、授業を始めます。
電話はカバンの中。辞書は見ません。もう話はしません。日本語だけの時間ですよ。」
と笑顔で教室内ルールを促す。
これも、コンサートの前に「携帯電話の電源をお切りください。」なんて言ってるのと同じだよね。
これも、大切な時間が始まることを感じさせる時間。
わかってるよ~と思われても、毎日言う。
初級は絶対必要。この注意促し時間。
そして全員OKなのを確認して、
「OKね。じゃ始めましょう。」と引き締まった空気のまま、笑顔で授業を始める。
これは緩急。
特に初級の学生ほど、いつも集中させて、いつも指示を聞かせるのは難しい。
日本語の認知力が低い学生が、ずっと集中して外国語で情報を獲得するのは、ものすごい集中力を要すること。
彼らにそんな力はまだない。
だから、ほんとに集中させたい時間の前は、ちょっとだけゆるめてから、「はい、始めますよ。」と空気をしめなおして、新しい時間を始める。
それと、空気を締めたいからって、怖い先生である必要なんて全然ない。
むしろ、バリバリ営業スマイルのまま、緊張感を持たせたほうが、効き目は持続する。
ギャーギャー怒って、相手の気持ちやクラスの空気を不快にさせたら、協力的な空気は生まれない。
自分の理想の雰囲気、空気にしたかったら、お客さんのご協力は絶対必要。
まさにコンサートと同じ。
でしょ?
次に、一つ一つ指示を出したとき。
たとえば本を開けさせたいとき、どうしてる?
「はい、本、25ページね。開けた?はい、ここの問題1ね。はい●●さん、読んでください。」
そして先生は、指名して、今音読をしている学生のことは見ているし、ちゃんと読めているか注意をしているが、他の学生が準備できたかとか、あんまり気にしないでどんどん進めてる。
こんなことないですか?
先生は、一番前の学生にも、一番後ろの学生にも、おんなじ影響力を与えなきゃならない。
また、指名した人にも、そのほかの人にも、同じぐらい注意を向けていなければならない。
だから私はいつも、まず本を全員に示し、
「はい、本出してください。25ページを開けてください。問題1を見てください。」
と指示したら、次にクラスが30人いたら、30人の机を全員分10秒で見回る。
机間を風のようにさ~っと、前から後ろまで、行ったり来たりして、全員分見回る。
10秒で。
そして一人一人の机の上に「本の25ページ」が開かれているかチェックする。
中にはぼ~っとしているのとか、友達とくっちゃべっているのとかいるから、机をトントンとノックして促したり、目で「早く準備して!」と、無言の圧力を加えながら、全員の用意を目視で確認する。
まず机間を先生が歩くことにより、教室内にいい緊張感が生まれる。
先生が教卓から動かなかったら、後ろの学生からまず緊張感がなくなりやすい。
で、どこかほかの世界に行ってしまって、はっと我にかえったら、授業が半分終わってた、なんてことになる。
だから、先生が机間を動き回ることにより、後ろまでいい緊張感を持たせて、集中を持続させることができる。
そして全員の席を常に見回ることにより、「先生に見られている」という、これまたいい緊張感ができ、余計なことをしないで集中しやすくなる。
そして先生が教卓にもどってからも、前から後ろまで、常に学生には同じ分量の視線を注いでほしい。
他の先生の授業を見に行った時、教室内がなんとなく集中しない状態で、まとまらない授業は、9割先生が後ろまで気を配っていない。
教卓、黒板エリアから出ていかない。
中には前列の5人にだけ授業をしていて、他は蚊帳の外、なんていう授業もめずらしくなかった。
これじゃ、だんだん空気が緩んで、、崩れ始めて、そこで初めて「静かにしなさい!」なんて言っても遅いわな。
○空気を変える。緩急を使う。
○全員におんなじ分量jの視線を注ぐ。
○机間巡視を効果的に使う
いかがでしょう?
今日はこれぐらいしか紹介できなかったけど、こんなコツ、挙げたらきりがない。
これの10倍はある。
でね、私はこんなコツこそ養成講座で、現場ベテランの先生が教えてくれればいいな、って思ってるのよ。
だって、どの教科書にも載ってないことでしょ。
でもなかなかこんなこと、教えてくれる先生、いないみたい。
もしお役にたつなら、試してみて。
初級の学生ほど、効果テキメン・・だと思うよ。
達成ポイントは、クラス全員が、ほかの世界へ行くことなく、最後まで楽しんで4コマ授業を受けること。
まずは日本語のレベルUPよりも、これができなきゃ。
最悪、日本語はちっともうまくならないけど、学校へ来るのが楽しい。
外でバイトとかいろんなしんどいことがあるけど、学校に来たら、あの楽しい時間が待っているから、誰も学校を休まない。
まずは、これを目指しましょう。
でも、もう空気がダレるのが日常化しているクラスには、このコツの効果が表れるのに3倍の時間も労力もかかる。
つまり崩れたクラスの立て直しには、3倍の力が必要だってこと。
だからこの空気作りの本当のコツは、彼らが日本に来て、初めて受ける授業から、これをやること。
そして毎日続けること。
何事も最初が肝心なのだ。
ところであなたは、クラスの空気、操れてますか?