Ⅰ.はじめに
金融緩和が雇用の改善につながることは、日本の場合の分析でも見た通りである。
同じことがアメリカでも言えるということが、以下のグラフでわかる。
つまり、FRBがお金を増やすと、失業率は改善している、ということである。
Ⅱ.分析
1.12年8月まで
リーマンショックから立ち直るために、アメリカは量的緩和を2回行って来た。
しかし、失業率は高止まりしており、12年8月の時点で8.1%もあった。
2.12年9月~13年12月
そこで、FRBは3回目の量的緩和を実施し、毎月850億ドル(米国債450億ドル+MBS400億ドルの買取りによる)増やすことにした。
つまり、毎月850億ドル×16か月(12年9月~13年12月)=1兆3600億ドルの増加予定だった。
それに対し、3兆6850億ドル(13年12月)-2兆6690億ドル(12年8月)=1兆160億ドルの増加となった。
若干の差はあるが、1兆ドルを超えて1.4倍にまで増やしたと言う点では、計画に沿った大規模な金融緩和だったと言える。
その結果、失業率は改善し、8.1%から6.7%へと、1.4ポイント低下した。
日本の分析でも述べたが、金融緩和が失業率の改善につながるプロセスは、以下の通りである。
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FRBが米国債等を買い取って通貨を増やすと、通貨の価値が下がる。
すると、人々は、価値の下がった通貨を手離し、モノを買おうと言う方向に動く。
FRBが米国債を買い取り続けるので、10年国債利回り(長期金利)=名目金利は上昇しにくい。
一方で、人々が将来モノを買おうと言う方向に動くので、予想インフレ率は上昇する。
その結果、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)は低下する。
そうなると、企業は設備投資しやすくなる。
また、実際にモノを買う動きも増えてきて、個人消費が伸びていく。
さらに、通貨の価値が下がっているので、ドル安になり、輸出にもプラスとなる。
こうして、設備投資、個人消費、輸出が伸びていき、企業の業績は向上し、雇用を増やす余裕が出て来る。
またそうした需要に応えるためにも、雇用を確保する必要が出て来る。
その結果、雇用者数は増加し、失業率は低下していく。
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ちなみに、マネタリーベースの実額と失業率とは、相関係数が-0.959であり(12年1月~14年11月)、負の相関関係が極めて強い。
つまり、FRBが通貨を増やせば増やすほど、失業率は低下していく、ということである。
3.14年1月~14年10月
こうして、失業率が低下し(コアCPIのインフレ率も13年12月で1.7%と安定し)てきたこともあり、FRBは量的緩和を縮小(緩和逓減:テーパリング)していくことにした。
つまり、米国債やMBSを買い取る額を徐々に減らしていき、10月には終了することにしたのである。
上記の期間は、マネタリーベースは平均2.1%のペースで増加し、1.4倍に増えた。
しかしこの期間は、平均0.9%の増加にペースダウンし、1.1倍の増加にとどまった。
その結果、失業率の低下ペースも、1.4ポイントから0.9ポイントへとダウンした。
それでも、14年10月時点で、5.8%にまで低下した。
これは80年以降で最も低かった00年の4.0%にはまだ届かないが、それでも10%台だったリーマンショック後に比べれば、大幅に改善したことになる。
このように、ペースダウンはしても量的緩和自体は継続したので、それに伴い失業率も引き続き改善していったのである。
Ⅲ.まとめ
日本もアメリカも関係なく、中央銀行がお金を増やせば、極めて高い確率で、雇用も改善する、ということが改めてわかる。
当然一定期間はかかるし、不安定な雇用から改善していくので、「金融緩和をしても効果はない」といった批判を受けやすい。
それでも、裏を返せば、一定期間かければ極めて高い確率で効果はある、ということである。
半径5メートルの範囲で、2~3カ月の短期間だけを見て、全体のことを判断してはならない。