Ⅰ.はじめに
お金をきちんと増やせば物価が上昇し、その逆もまたしかり。
このシンプルなことが、以下のグラフから改めてわかる。
使用するデータは以下の通り。
マネタリーベース:日銀
消費者物価指数(総合=食品・エネルギーを含む):総務省
企業物価指数:日銀
企業向けサービス価格指数:日銀
消費者物価指数については、天候や市況等の影響を受けやすい食品とエネルギーは、本来除いて見るべきである(日本で言うコアコアCPI、諸外国で言うコアCPIで見るべき)。
しかし、企業物価指数が農産物やエネルギー関連製品も含んでいるため、消費者物価指数もそれらを含む総合で見ている。
Ⅱ.これまでの経過
1.13年4月~14年3月
13年4月以降、日銀は大胆な金融緩和を開始した、つまりお金を増やす政策を始めた。
お金が増えると、お金の価値が下がり、価値の下がったお金を持つよりモノを買う動きがいずれ出て来る。
それが現実になるにつれて、物価は上昇していく。
実際に、上のグラフの通り、3つの指数いずれも上昇していっている。
ただしそれでも、14年3月時点では、消費者物価指数は1.6%であり、変動の激しい食品・エネルギーを含むベースですら、目標の2.0%には満たないレベルであった。
2.14年4月~
(1)消費者物価指数
それなのに、14年4月以降、日銀は金融緩和のペースをやや落とし、政府は消費税率の8.0%への引上げを決めてしまった。
つまり、世の中全体に出回るお金をあまり増やさず、家計が自由に使えるお金も減らしてしまったのである。
そうなると当然、お金の価値は上がってしまい、お金を貯め込み、モノを買わなくなっていく。
それに加えて、夏場以降は原油価格も下落し始めた。
その結果、消費者物価指数は低迷し始め、11月には0.4%にまで落ち込んだ。
このままいくとマイナスになり、デフレに逆戻りしかねない。
(2)企業物価指数
企業と個人のモノの取引の影響をある程度受けながら、企業間のモノの取引も行われる。
そのため、消費者物価指数が低迷し始めれば、企業物価指数も低迷し始める。
つまり、上記の要因が企業間にも影響して、企業物価指数も低迷し始め、11月には-0.2%とマイナスにまで落ち込んだ。
企業間の場合は特に、原油価格の下落の影響が強いと考えられる。
(3)企業向けサービス価格指数
企業と個人のサービスの取引も、企業間のサービスの取引に影響を与える、と一応は言える。
ただしサービスの場合、モノと違って買い貯めできないので、ある程度継続して取引が発生し、価格も徐々に上がっていく。
また当然原油という「モノ」の取引ではないため、原油価格の下落の影響を直接的には受けにくい。
そのため、企業向けサービス価格指数は、一貫して上昇し続けている。
(4)まとめ
以上をふまえると、お金を減らすと、特にモノの取引が停滞し始め、物価は低迷していく、ということがわかる。原油価格の下落はそれに拍車をかけている、ということである。
Ⅲ.今後の見通し
日銀は10月末に追加の金融緩和を決め、政府も消費税率10.0%への引上げは延期の方針である。
つまり、世の中全体に出回るお金を再び増やし、家計が使えるお金を奪わないようにしよう、ということである。
そうなると、時間はかかるが、再び物価は上昇していくだろう。
ただし、これまで政府や日銀に裏切られてきた国民の不信感は根強く、また原油価格下落が続く可能性もあり、文字通りかなり「時間がかかる」恐れがある。