「群雛」2014年10月号爆速レビュー!! | モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん

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 ごめん、掟破りが恒例になっちゃ、掟破りじゃないよね…。といいつつ、今回私も参加した群雛の確認版が届いたので、さっそく私の掲載分の確認とともに、誰よりも早い爆速レビュー。実は私、毎回こうして真っ先に拝見するのを楽しみに参加しております。(参加してなくても買っちゃうけどね)


〈普通〉の話をしましょう!/吉野茉莉

 まず第4回ブクログ大賞[2013] フリー投票部門受賞、おめでとうございます。私なんか無駄に歳重ねてるだけで、ほんと作者さんが眩しいっす。

 一定水準超えないとやっぱり賞とかデビューできないもんね。そういうところも超えてるな、眩しいなあとホント思う。あと、普通の話が普通にできるって、それもまた眩しく明るいこと。

 ああ、そこで私は汚れちゃったよ…。そんなことを読みながら感じました。前向きで巻頭にふさわしいと思う。我々日本独立作家同盟の意義論につながってるところとかもいい。ありがとうございます。

 そう、普通のことが普通になるって、難しいけど、それを見失っちゃダメなんだよね。

 そういうところもしっかりまとまってて、いい。巻頭の役割十分果たしてます。いろんな分野のが載ったとしても、全体として前向きなこういう雰囲気が「群雛」のカラーだもんね。


激闘!宇宙駆逐艦/米田淳一

 ぎゃあ、私だ。というわけでスルー、したいところだけど、それだと他の方に申し訳ないので。

 今のところ、インタビューにもある通り、まだシファ大暴れ大虐殺モードが続いてます。ヒドイっ。でもそれには理由があるのです。すごく悲しい理由が。

 あと、密かに途中の戦闘糧食配食のシーンが好き。今の米軍「Tレーション」セットみたいなものの未来版を登場させてます。でも、それを書こうとしてたら「パッキング」という単語が盲点にすっぽり入っちゃってて、それのせいでうまく書けなくて。掲載分はそのパッキングという言葉ですっきりさせてあります。ありがとうヒントをくれた編集さん。このシーン、実はドラマ踊る大捜査線スペシャル(秋)のシーンにもヒントもらってます。駆逐艦艦長のイメージ、米宇宙軍なのに実は「すみれさん」の感じだったり。でもセリフに「海戦に小さいも大きいもない!」はありませんが。でも考えれば「海戦が艦橋で起こってる」というのは仕方ないかも。今ですでに艦艇は省力化設計だからねえ。

 ちなみに次号で最終回です。よろしく。


マタギ話/芦火屋与太郎

 おお! すごく渋くて面白くていい。マタギの世界という題材も素晴らしくいいけど、それを表現する文章も過不足なくて風味も良い。風景が浮かぶのが私が秋田出身だからだけではないと思う。

 そこで題材が良すぎると文章書くときビビることがあるけど、ちゃんと負けてない文章。途中の狩りのシーンがまた独特の感じ。さすが実体験を聞いた話の迫真感。というわけで、まだまだ山の知恵はあると思うので、さらに取材してもっと書いてほしい。今回の群雛はホラー縛りではないのだけど、すこしホラーが香る感じがまたいいかも。マタギの世界観、文化がよく出てて、語り口にそれが香るのが、また独特に品が良い。

 こういうのがダイレクトパブリッシングでどんどん出るところに、ほんと、未来があるなあと思う。


ガラスの泡/ヘリベマルヲ

 いい感じに怖い。重層的に構成されてて、どんどん怖さが積み上がっていく。ホラー探偵物としての色がバッチリ。完成度もかなり高い。

 中でもとくにプロローグが秀逸。作品のホラーの空気が一気に出来上がるところが鮮やかで、それがしっかり怖くていい。その風景も情景として明確に浮かぶ。描写力でしっかり怖い。説明して怖いのではなく、描写でガッツリ怖いのは力量だなあと思う。「ちびっこ広場は汚染されているという噂だった」というだけでクルもんね。

 事件の作りかたもぐっとくる。重なってく事件に最近実際あった事件がさっと連想される今っぽさがいい。この機動力は電子書籍らしさだと思う。

 道具だても構成も鮮やかなので、これ、最後の真相はどう用意されているんだろうと興味がっつり。さすがである。


井の頭Cherryblossom~restart~TheBlueMarble/くみ/魅上満

 連載。BLということだけど、私的には素直に読めた。前回から引き続いて丁寧な日常描写、機微が緻密に書き込まれながら、少しずつ宇宙飛行士として対決していかなければいけない現実が、じわりじわりと近づいてくる感じ。近づいてくるからこそ、そこまでの日常や機微が愛おしいよね、という狙いの小説なんだなと味わった。とにかく「甘くてふわふわ」よりもさらに優しく繊細な世界。私自身BLってよく知らないけど、それでも楽しめた。というかBL好きな人が好きな理由がわかる気がしてきた。そういうところがまたいいよね。

 表紙イラストもまたいい。繊細な世界観ができてる。描き込みもさすがだし、よくマッチしてると思う。


波長/竹島八百富

 抑え目のホラーという感じ。先の「ガラスの泡」とは別の風合い。作者はインタビューで「地味」と書いているけど、ピンポイントでぞくっとさせる仕掛けになっていて、これもまた興味深い。そのぞくぞくのスタイルに「エクソシスト」を思わず連想しながら読んだらインタビューでも納得。その狙い通りに怖くてよい。効果的にできてると思う。こういう怖さ、個人的には好きなんですよ。とくにドバーッと怖い怖い怖いぞー、と押しかけてくるのではなく、日常の中で「えっ」となって、その直後にぞ~っと来る感じが好き。小池真理子さんなんかがこういう路線をやってたような気がするけど、けっこうそれに肉薄してさらにいきそうで期待。


時空を超えて/盛実果子

 2回連載の最終回。おつかれさまでした。タイムスリップになってるし、最終回らしい有終の美になってる。たしかに当人ご謙遜で若干薄いかもしれないけど、それでもそれをがんばって丁寧に最後まで書ききったことは絶対にいい。中途で放棄したらなんの未来はないので。

 ぜんぜん薄いとか気にすることないですよ。まず楽しんで描くのが一番。というか、これで少し薄いと言ってしまえるほど、ほかのところの技量がみんな上がってるし、それに書く当人が自作を薄いといえるだけ、自作への審美眼も肥えてきてるわけで、それはすなわち実力も実際積み上がってるということ。

 こういう書ききる経験は絶対に今後につながっていくので、その期待を持ちつつ読みました。とくに今回の経験値とそれを冷静に見られる審美眼の成長で、次の作品がさらに楽しみ。これからも御作拝見したいです。


A県自動車道午後二時四十五分/きうり

 キレの良いホラーミステリー短編だと思う。というか今号の群雛、やっぱりなにげにホラー祭りの感じの気が。サスペンスもあるけど、仕掛けがホラーだし、しかもその裏付けの考え方がSF的に私もすっかり納得という。実に私好みなのです。サラリと読めるけど、それでいてキレが良くて味わい深い。いい。このレビューは短いけど、この作品、さらりながら読みがいがあります。こういうキレの良い短編はネタバレしたらもったいないのでレビューはあえて短めで。すまぬ。


計算する知性/夕凪なくも

 実は予告ですごく気になってた作品。で、読んでみると、おおっ、やっぱりホラーSFだ! 期待通りのシーンと展開が次々だけど、これサンプルなのか。でも十分サンプルでも楽しかった。安定してるし、この感じで進んでいくと思うので、期待を裏切らないと思う。さまざまな道具立てもしっかりと間違いないし。ほんと、徹底的にデジタルな知性に関わるものが詰め込んであるし、それでテイストもいいのですごく楽しみ。

 私は実はSFの人たちから石投げられてる感じらしいけど、私としてはこういうSF好きだなあ。ちょっと怖くて、それでいて夢があるというのも好き。


オーロラの夜明け/婆雨まう

 愛があるよなあ、と思いつつ読んだ。特にお父さんの愛がすごく強く書かれているだけじゃなくて、それがすごく良い方向にも悪い方向にも働いているように思えた。親の愛ってそういうもんだよね。もちろんそれだと子どもはたまったものではないけど、親もそれはそれで考えこんでやってることだし。

非常に心理学的にダブルバインドなんだけど、そこから抜け出せるのか。そういう事を考えさせられた。

 大人でもいつの間にかその親の愛のダブルバインド状態に苦しめられてることがあるんだよね。

果たしてそこから生まれ変われる夜明けは来るんだろうか。実は私自身もそういう状態に時々なるので。私もその迷路のまっただ中なんだなと思いつつ読んだ。こういう読書も、いいものです。


表紙イラスト/伊富魚子

相変わらずいい表紙。前回の路線とはまた変わったけど、群雛としてここまで来たなかではむしろこっちのほうがカラーとしてついてきたかな。季節感もあっていい。バリエーションもほしいけど、表紙には「らしさ」もまた大事。でもいつもみなさんそれぞれ頑張ってるなあと思うし、「群雛」はそういう表紙に恵まれてるなあと思う。


あとがき

なんと今回読者プレゼント+アンケートが。ますます本格的な雑誌らしくなったなあ。そういやあっという間に半年が過ぎ、もう一周年号の企画にもなりそうな。着実に書籍の世界に頁刻んでる感じで嬉しい。

晴海さん、ええっ、どっぷり個人出版じゃなかったんですか? もっと前からかと思ってた。失礼しました。戦略的にやってるのでどっぷりかと思っちゃったよ(私があんまり考えてないだけです)

竹元さん、いろいろやってるなあ。まあ、頭の使う部分が違うことをするのって脳の健康にいいもんね。しかし選んだ楽器がなぜそれを…。難易度高くないですか?

鷹野さん、うわっ、なんすかそれ! ドキドキだよっ。でも正直、そういう方向になってったら楽しそうだよなあ、と類推してしまう。具体的には想像がつかんけど、今後がまた楽しみ。


概観

偶然だと思うけど今回はホラー特集のようにホラーカラーの作品が揃ってます。(すまん、全然そういうこと気にせずマイウェイで宇宙戦記書いてる私って一体…(と思ったら、あなたのもスペースオペラホラーじゃないですか! とのツッコミが。ぎゃー!)) それでいてそれぞれ風味が違うので、競作のように楽しめるところがまたよい感じです。私好みを引いても面白い。


というわけで、みなさん、おつかれさまでした、また作品拝見できて楽しかったです。これからもよろしくです。


あと、読者の方にも。みなさんの応援でみんながんばれてますので、ますますのご支援をよろしくおねがいします。書き手は読者がいることで、なんだってできるようになりますから。こういうのを面白くしてくれるのも読者の皆さんの力なんですよ。ほんとうに応援よろしくです。

9月30日発売です。