新潮文庫1月の新刊。この長い物語も、いよいよ第三部へと突入する。
この第三部では、第一部で読者には馴染みとなった塚田真一、前畑滋子、有馬義男、武上悦郎などの動向に添っての進行である。高井和明の妹の由美子が重要な役割を果たすし、ピースが初めて網川浩一という姓名を与えられて登場する。
栗橋浩美は自室に有り余る犯罪の証拠を残していて、連続誘拐殺人事件として把握されている被害者の他にも7名余の犠牲者がいたらしい。警察はまずは一連の事件の犯人は栗橋浩美と高井和明と決め付けて、それら不明の犠牲者の特定に全力を上げているようだ。前畑滋子もその前提でルポを書き始め、最初は好評を得る。高井由美子だけが「兄は犯人ではない」と訴えるが、耳を貸すものはいない。そこへ、その由美子をサポートし、「真犯人Xは他にいる」と華々しくアピールするのが、ピースこと網川浩一だ。
この小説は犯人探しのミステリーではなく、我々読者はすでに網川浩一が主犯であり、高井和明は被害者の一人であることを承知している。そこへ人を食ったような形で網川が前面に出てきて、正義のヒーローのような振る舞いをするのだから、どうにも愉快とは言えない。塚田真一、有馬義男、前畑滋子などが網川に振り回されるのも気の毒になる。高井由美子がすっかり網川に取込まれてしまっているのも心配だ。警察は何をしているのかと、イライラしてしまう。
イライラといえば、宮部みゆきの小説作法にも問題があって、警察が網川を疑う要素が出てきたことをほのめかしはしても、読者にお預けを食わせるように、途中で切り上げてしまう。テレビのクイズ番組で、解答を明かす前にコマーシャルが入る、あの方法だ。読者はイライラしながら引きずられてゆかざるを得ない。週刊誌の連載だったからこういう手法で読者を引っ張る必要があったのかも知れないが、フェアな小説作法とは思えない部分だ。
などとブツブツ言いながらも、作者の術中に嵌って、ここまで読み進んできてしまった。残る最終巻で、網川浩一の仮面がどういう形ではがされるのか、早く知りたくてたまらない。
2006年1月26日 読了