宮部みゆき 『模倣犯(三)』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 新潮文庫12月の新刊。(二)から始まった第二部の続きである。

 この(三)を読み終えて、ようやく(一)の第一部の最後部分に戻ってきたわけだ。考えてみれば、群馬県の車の転落事故は、第一部の終りに、唐突に起きたのであった。そこで死んだ二人の若者が一連の猟奇的かつ扇情的な事件の犯人と目されたのだが、結局、この第二部は、その二人の若者・栗橋浩美と高井和明が事故に遭遇するまでを、克明に辿った物語であったというわけなのだ。何だか、随分と遠回りをしてきたような気分になってしまう。

 この第二部は、犯人側からの叙述なので、相変わらず陰惨な描写が続く。事故車のトランクにあった死体についても説明がなされ、一つの疑問は解き明かされたことになるのだが、だからスカッとするかと言えばそうはならず、厭な感じはどこまでも続くのだ。被害者に接する栗橋浩美の異常心理はエスカレートしてゆくようだし、ピースはさらに邪悪を楽しんでいる。そして、栗橋浩美はともかく、一緒に死んだ高井和明も大川公園から始まった一連の事件の犯人であるというのは、決して正しい結論ではないことを、読者は知らされている。作中の警察や世間が騙されても、読者は本当のことを知っているというのが、ここまでのこの物語の構造となっているのだ。

 一見終息したと思われる事件の裏で、まだピースが声を立てて笑っている。不気味な笑いだ。物語の今後は、ピースと捜査陣との知恵比べとなってゆくのだろうか。それとも、すでにここまででしっかりと伏線が張り巡らしてあって、アッと驚く結末へと雪崩込んでゆくのだろうか。

 それにしても、本筋を離れて枝道へ踏み込むことが多すぎるのではないかと思う。例えば、浩美の母が入院し、その隣のベッドの患者まで丁寧に描くというのは、余計なことではないのか。それも伏線の一つで、最後に強烈な効果を発揮するのであれば、脱帽しなければならないのだけれど。

  2006年1月23日 読了