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『わんっ』
唐突にそんな鳴き声が聞こえた気がした。


ここの所私は多忙を極めていた。神経を常に研ぎ澄ましては磨り潰す、そんな作業を四六時中繰り返さなくてはいけないはめに何故か陥っていた。


そんな現状なのだから何が見えて何が聞こえたって何ら可笑しくはない。
先日も見えてはいけない何かが私に手招きをし
『同情するなら金をくれ』と訳の分からないことを言われたばかりであった。


ただその時の幻視幻聴は実際に起きていたことではなく、私の脳内環境の異常により引き起こされた非現実的な出来事であったのは明らかであった。


なので今回の鳴き声も、ちゃんちゃらおかしい脳内異常による幻聴なのだと私は悟った。
しかし、声が未だにかつてない程近くで聞こえたのは気のせいであろうか、いまだにハァハァとも聞こえる。


私はおもむろに振り返る。
そこには愛らしい瞳を持ち、すんすんと鼻を鳴らす可愛らしいドーベルマンが、癒されがたい鋭い牙をこちらに向けて、ハッハッと吐息を漏らしている。
そしてその背後にはもう1つの黒い影。


私は一時混乱した、とうとう幻覚まで見えはじめたか…
そんな私プライスレス、なんて心の中でガッツポーズをしてみたが
一向に、目の前で涎を垂れ流すドーベルマンの鋭い視線が消える気配はない。
それどころか今か今かと襲えの合図を待ち、早くガブリと噛んでしまいたいですます。なんて心情が読み取れそうな顔までしている。


そんなドーベルマンとの心理戦を繰り広げている間に、おもむろと犬の背後にいた黒い影がこちらに歩を進めてきた。


月明かりが彼を照らした。


その瞬間、混乱してもはや卑猥なことさえ考えかけていた脳が、物凄い速さで猥褻思想を淘汰し、ことの次第を一挙に把握。
疾風の如き早さでその場から逃げ出した。

ドーベルマンは何故か追ってこない。

斯くして私は、意外にすんなりと獰猛そうなドーベルマンと正体不明の謎の男から逃げ出すことに成功したのであった。
>>私は友人、知人に森見さんの高尚な図書を貸し出し、偉大なる森見登美彦さんを知らない陳腐な輩に軽蔑の目をやりながらも
勝手に森見さんの勇名を馳せることに身を投じていた//
そしてそれと時同じくして、コメミコメヒコという森見ふぁんからは罵詈雑言の嵐を受けると思う、この恐れ多いネーミングの汚名を狭い範囲限定で同時に馳せることにも成功した。やったね!








なんて前置きは置いとまして。

今日先程、本屋さんを駆け回り、森見さんの
新作第十子・ペンギン・ハイウェイを買いました!!

もう表紙からお姉さんと『僕』の情景が浮かんできて、涙が出そうになりました・・・

まだ最初の1ページしか覗いていないのですが、なんか良い感じで(^^)今からとても楽しみです!

森見ファンの皆様はもう『ペンギン・ハイウェイ』はご購入されたでしょうか?キラキラ
似非森見さん的文学小説ですます。-image.jpg
>>>>>>>喉がからっからに渇いている時、目の前に1リッターの牛乳があったならば、人はどうするであろうか?

私ならば迷わず飲もう
コップ一杯とは言わず1リッターでも2リッターでも、今ならいくらでも飲めるのだ。そんな気がする。
あのひし形の注ぎ口に唇をあてがい勢い良く飲もう。
極度に渇き水分を欲する口腔内に、白くて涼やかな牛乳を流し込むのだ。

そして私は気が付けば冷蔵庫の前に立っていた。
行動を起こすことに迷いは無かった。

しかし、冷蔵庫に手を掛ける刹那、私の脳裏にいつか見た牛乳のTVコマーシャルがかすめた。

脳内で再生されたその映像には、誰からも愛されよう好青年が、コマーシャルゆえの十五秒という短い時間に牛乳の美味しさを最大限にアピールすべく作り物の笑顔をこちらに向けて牛乳に飛び付くと、彼は注ぎ口を開けひし形に口をあてがい、ごく、ごく、ごく、と喉を鳴らして飲み続ける。
時間終了三秒前には、空になったパックを振り下ろし、ふうと大きなため息を吐き
『美味い!もう一杯』
なんかどこかで聞いたような台詞を吐いている、そんな淡い記憶を思い出した。
――それはさておき、そういや、あの好青年は十秒弱で牛乳を飲み干したのではないか?恐るべき速さだ。
そのCMの右端にイメージ映像と書いてあったのは後で思い出したことだが
この時の私は確かに戦慄していた。世界は広い。

硬直した自身の内側では脳内麻薬が多量に分泌され、平常心が冷静と情熱の間を右往左往していた、意に反し徐々に心臓の鼓動が高まっていくのを感じた。

――やってみたい―

衝動を呟きに変えた途端、身体の硬直は消え、物凄い勢いで冷蔵庫の戸を開ける。
牛乳は二本あった。
一本の残量は約二割といったところだろう、だがしかしもう一本は新品買いたて手付かずである。
いつもの私ならば開封済の牛乳でも満足できただろう、だが今の私は自信に満ち満ちている、言わば過信の塊だ。だがいける気がしてならない!

――やろう…
私は本能に身を任せた
『後のことは任せろ…好きなようにやれ、責任は取ってやる』私は呟いた。
『恩に着る!!』
そして私の本能は注ぎ口を開け、息を整えたのも束の間、唇を強引にひし形へ近付けた――

ここからの映像は私が脳内から本能が起こした行動の一部始終を優雅に傍観していた記憶である。
このやり取りがこの後起こる凄惨な事件の引き金になろうとは。だがそれは一分先、未来の私のお話である。

私は注ぎ口を凝視する、こうして客観的に見てみると、ひし形が何か猥褻めいたモノに見えてくる、私の中にもまだ本能が残っていたというのか、本能と共鳴した私の興奮は最高潮に達した。

ひし形に口をあてがう、もう戻れない。
私はこの牛乳を気持ちよくかつ豪快に飲み干してみせよう。
そして本能の赴くまま勢いに任せ、呷る。
純白の牛乳が、土石流のごとく私の喉元を通り過ぎる。

すかさず私は、喉をごくごくと可能な限りの早さで鳴らしてみる。牛乳はスムーズに食道を通り、胃腸へと流れていく――私は是が非でもこの挑戦を成し遂げてみせる――

そう誓った刹那、ひし形が形を変え、言うなれば三ッ葉のクローバーの葉先ような形になった、自動的に白い液体が注ぎ口まわりを踊り狂う、手の中で紙パックが緩んだ。
悪魔が笑っているように見えた。


――私の敗因は一体、どこにあったろう

私は純白に染まる床から目が離せずにいた。その傍らであぐらをかいて私にほくそ笑んでいる紙パックを拾い起こす気力さえ私にはもう無かった。


―――失敗したのか。
一体、何故このような白い地獄の黙示録を開くことになったのだろう。
私には2つの思い当たる節があった。
1つはまめな水分補給を怠っていたことによる、本能解放の可能性を限りなく高めてしまったこと。
そしてもう1つはまだ止められたであろう本能の暴走をこれから始まる楽しいサーカスでも見るかのように第三者の立場から優雅に傍観していたことである。
慢心しきった末に、気管へ流れ込んだひとしずくの牛乳。

――何の罪だろうか
取り乱した際にパックを取り落とした我が右手の罪だろうか。
それとも、この挑戦自体が業の深い行いだったのだろうか。
話しかけてもふて寝を決め込む本能
『責任取るっていったろう?』
私は静かに涙を流した。

浮かんでは消える数多の自問に適切な、自答。

その答えは遂に見つかることはなかった。


















・あおる【呷る】
勢いよく飲む。