― 機は、熟した ―
2024年も終わりが見え始めた頃。
よめこが、ふとこう口にした。
「また、走りたいなー」
──私は聞き逃さなかった。
機は熟しつつある。いや、機熟だ。
間髪入れずに近畿スポーツランドへ連絡し、走行セミナーの予約を取る。
今回は特別な準備もいらない。
すべては想定内。滞りなく当日を迎えた。
受付を済ませると、サーキットはすでに排気音に包まれている。
バイクや車が好きな人間なら、否応なく高揚してしまう空間だ。
セミナー内容は前回と同じ。
まずは駐車場での基礎練習から始まる。
半年ぶりということもあり、走り出しはやや不安定。
よめちゃんの動きは少しよろよろしているが、表情は真剣そのものだ。
しかし、インストラクターのアドバイスを受けるにつれ、
身体が感覚を思い出してきたのだろう。
8の字も次第にスムーズになっていく。
見ていてわかる。
前回より、確実に走れている。
ついには先生から、
「もう卒業ですね」
という言葉まで出た。
よめこは今回も終始楽しそう。
これは……機熟っ!
休憩中、先生からふと聞かれる。
「サーキット用のバイク、買うんですか?」
このとき私の頭にあったのは、
グロムか、NSF100。
昔、NSR50に乗ったことがある。
路面に吸い付くようなコーナリングに、強烈な感動を覚えた。
そのレーサー版であるNSF100も、正直かなり魅力的だった。
しかし先生の話では、
「今はグロムが主流ですよ。こちらがおすすめです」
とのこと。
さらに、もし買うなら──と紹介されたのが、
たまたまその日走りに来ていた、ライコランドのHさん。
Hさんはライコランドのメカニックで、
話を聞くと、やはりグロム推し。
「買うなら、レーサー仕様のグロム、手配できますよ」
たしかに。
レーサーバイクって、どこでどうやって買うのか、まったくわからない。
ここで、よめこにも意見を聞いてみる。
この質問は、
「買うか、買わないか」ではない。
「グロムか、NSFか」
それを聞くことが大事なのだ。
買うことは前提。
その流れに、よめこも特に違和感はなさそう。
「グロムの方がちょっと大きいよね。足つくかなー」
するとHさんが即答する。
「サーキットは、走り出したら足をつくタイミングないですから。大丈夫ですよ」
たしかにそうだ。説得力ある。
とはいえ、この日はまだ注文せずに帰る。
焦らない。
計画はすでに完成の域にあった。
寒いのでパーカー着用
