大滝詠一を聴きながら 7 | コーヒーもう一杯

コーヒーもう一杯

日々を楽しく まったりと過ごせるといいよね。

7回目です(全8話)




年が明けた。

松の内も過ぎ、天気の良い青空。

富士山がよく見える。

電線にゲリラカイトが頼りなくぶら下がっている。



今日は自動車教習所。

やっと4段階、いわゆる仮免許で路上教習だ。

担当の先生を確認すると松島先生。

あ~ついてない。

あまり評判の良くない先生だ。


「よろしくお願いしま~す」

最初にボンネットを開けてエンジンルールの点検をする。

何がどこにあるのかサッパリ分からないが、適当に指さして大きな声をだして
「よしっ」と言いながらボンネットを閉めてしまう。

いつもの手だ。


さて発進。

正直、未だにアクセルとクラッチの加減が分からない。

案の定、エンストしてしまった。

「おいおい、しっかり行こうぜ!4段階だろう」

いきなり先生の罵声が飛んできた。


この先生は分かっていない。

ボクは褒めて伸びるタイプなのに。


恐る恐る路上に出ると、そのスピード感に恐怖を感じた。

せまっ苦しい教習所の中では大した速度は出ないが、ここは車がビュンビュン走っている。


ウインカーをカチカチ鳴らして左に曲がると国道に出た。

そこは片道2車線の制限速度50キロの世界。


「オラァーもっとアクセル踏んで!周りの車に迷惑だろ」

先生に野次られてやっと法定速度まで上げたが、他の車は相変わらずビュンビュン抜かしていく。

みんな交通違反じゃないの?

フラフラになりながら路上初日を終えた。



受付で次回の手続きをしていると、中学で同級生だった衣笠さんが声をかけてきた。

「岸くん」

「あ、衣笠さん。どう調子は」

「なかなか2段階の見極めもらえないの」

「ボクはやっと今日から4段階だけど散々だったよ」
教習所での会話は非常に盛り上がる。


ほとんどが慰めあいや暇つぶし、それに先生の情報。

ちなみに今日の先生の情報は前評判でも最悪だった。

そう言えば、さっきから衣笠さんの後ろに誰かいる。


「あっ、岸くんは百瀬さんを知ってるよね?」
ボクが知らなそうな顔をしていると

「ほら~中学のときに同じテニス部だった~」

「あ~知ってる。メガネしてないから気づかなかった」

そう、たしか百瀬は大きな丸いメガネをしていた。

話したことはないが、ドクタースランプのアラレちゃんに似ていると思っていた。

「キーン」とは言わない。

「それでね岸くん、彼女が二人で話したいというのでよろしくね」

なんて言って衣笠さんは去ってしまった。

ありゃりゃ。


話ってなんだろう?彼女から用件を話すだろうと思ったが、
ちっとも話す様子がない。


しょうがない。

ボクの脳みそをフル稼働して
部活のこと、教習所のこと、今やってるバイトのことなどを話した。

なんとか話題が続き、電車の時間が近づいてきた。
田舎の電車は1時間に2本程度なのだ。

ボクが駅に行こうとすると、百瀬が送ると言ってついてきた。

「メガネからコンタクトに変えたんだ」

「そうだよね、ずいぶん印象変わったよ」

「どうかな」
とボクを見つめてくる。

「うん、とっても似合ってるよ」

二人で歩きだすと百瀬が饒舌になった。

駅まで5分くらいの道のりだけど、さすがに疎いボクも気づき始めた。


それからは、なるべくそういう雰囲気にならないよう明るく振舞って対応した。

そして電車がホームに入ってきたのを合図に
「またね~」
と言って手を振り駆け出した。


どうしても、高1のときに振られてからそういう話は苦手なんだ。