『フルマラソン完走物語 5』
みえを張るわけじゃないが、
いつもならこのくらいは、分けないんだ。
だけど、このときのぼくの足は、
もう限界だった。
しかも、
右左と足をすすめるだけで、
鉄でもたたいて加工できるくらい、
ヒザは熱がおびていった。
ぼくは思った。
「42.195キロって、われながら、浅はかだったかな?!」
と自分をあざ笑った。
こうなることを、
予想しなかったわけではないが。
ぐるぐる巻きにしたテーピングが、何の対策にもならなかったのだから。
弱音のひとつ吐きたくなる。
しかし、
城ヶ島をおり返したころから、足はパンパンにはれていた。
「あ~あ、25キロ地点までの4時間は調子がよかったんだけどなあ」
と、
そんなことばかり、
壊れたラジオのように、
頭の声がくりかえしていた。
じつに、
「フルマラソン完走の野望は、厚い!」
といえた。
だが、
男が口にだしたからには、
それをまた、飲む混むような行動はしたくないものだ。
「平常心、平常心。無心にならなければ…」
と、心をおちつけたら、
ふたたび、大和魂に火をつけたのである。
それからは、
不思議と足を引きずりはしたが、
ヒザの痛みは気にならなくなっていた。