25年前の事だが、未だによく覚えていることがある。
劇団四季の浅利慶太先生に、「お前は何の人間だ」と聞かれ、「どちらかと言えば歌です」と答えて、呆れられた。
やれやれ、何か一つでも、自分の芸に自信が無いのか、という呆れであろうが、その時の僕は、ちょっと違ったニュアンスでそう答えたのだった。
もちろん、二十歳そこそこで大した芸があるわけでもなく、努力目標ではあったが本当は、「僕は、全てこなせる、ミュージカルの人間です」と言いたかったのだ。
ミュージカルは、総合エンターテインメントだと、僕は思っている。世の中の面白いモノを全部取り入れた、エンターテインメントの中のエンターテインメントだ、と。
ところが世間では、歌と踊りをやってお茶を濁す、演劇の下位互換のようなイメージで捉えている人が結構多い。
それは仕方ない。
が、困ってしまうのは、俳優や、作り手側にも、そう思っている人間が少なからずいる事だ。
翻って、自分は(上位互換としての)ミュージカル俳優ですと、自信を持って言えるだろうか……?