人知れず咲く、サボテンの花は
困難な状況にも耐え忍び、愛や、感情を長続きさせる、力強さや、忍耐力を象徴する花言葉で、唯一ボクサーに似合う花。である。
これは、横浜さくらボクシングジムのサボテンの花達の物語である。」
時間が来て最後の会員がのいなくなったジム。
シャッターは下ろしたが、まだ電気はついている。
会長は事務所で「ひとり酒」、京都の友人からの頂き物、琥珀色したなかなか手に入らなくなった山崎のウイスキーを、飲んでいた。
会長は、ボクシングジムをやってて良かった。ボクシング冥利に尽きるとウイスキーグラスを手にして、ボクサー悟(サトル)の人生を振り返りかえっていた。
悟は、高校を卒業すると、上京して建築現場で仕事をしながら、ボクシングを始めた。
持ち前のファイターは、ボクシングに居場所を見つけた。
仕事が忙しくても他に妥協しないハードな生活とトレーニングに耐えた。
その結果は、順調に勝利に繋がり全日本新人王の栄冠に輝いた。
その後A級ボクサーとして活躍した後故郷に帰り、こちらでの経験を生かして会社を立ち上げた。
そして当初よりボクシングを応援してくれていた彼女と結婚して2人の子供をもうけた。
この間
裸一貫からのスタートに借金を抱える苦しい時期もあったと聞いた。
昼夜の仕事に
わしは、「無理をするなよ、体を壊したら元も子もないぞ、」と注意を促したが、
悟は一言、「ありがとう御座います。でもボクシングに比べればなんでもないですから」と答え、苦しい時期を難なく乗り越えた。
時は流れやがて授かった2人の子供は成人して悟をサポートし会社は順調に運営されている。
今夜、悟から連絡が来た。
会長「孫が産まれました。」電話の向こうの、悟の弾んだ声は、とても嬉しそうだった。
悟の連絡にハッピーな気分になって、1人、ウイスキーグラスに酒を注いで祝杯を口にした。
気持ちの良い、ほろ酔い気分の「ひとり酒」に、誰も居ないジムの電気の灯を落とした。