ジムではパンチングボールを叩いている音と、BGMの音楽が共演していた。
和馬は会長のところに行って
「会長、長い間ありがとうございました、ボクシング最高でした」と頭を下げた。
パソコンの前に居た会長。
会長は顔上げて「そうか、リングで多くのものを学んだな。」
和馬、「はい」
向こうに帰っても無理すんなよ。上京したらまた顔をだしな。」「はい有難うございます、失礼します。」
と深々と頭を下げて、2階の事務所を出てジムへ降りた。
和馬はカバンからグローブを取り出しリングの上に置いて、リングに頭を下げてジムを出た。
和馬には郷里に帰るために別れた彼女がいた。
プレゼントしたミニグローブを
彼女はいつも大切にバックにつけて、デートに現れた。
長男であった和馬は彼女と別れて、田舎に帰る事を選んだのである。
和馬は、彼女とこの街の思い出にお別れするため
思い出の場所を巡っていた。
チャイナタウンで食事をした。楽しかった。
野毛の行きつけの店「ドルチェ」で軽く飲んだ。彼女との取り止めのない会話に心が揺れた。
和馬は彼女との思い出の日々を、回想していた。その事が幸せに思えた。
みなとが見える丘からベイブリッジのロケーションは、いつ来ても申し分なかった。
和馬は、最後に東口にあるデパートのレストランで食事する事を選んだ。彼女とデートして一番沢山利用した店だった。京急とJRを利用する2人には待ち合わせにも別れにも都合がよかった。
食後、和馬は下におりる。エレベーターをまっていた。
1階のエレベーターの前には、寂しそうに上りのエレベーターを待つ、バックにミニグローブをつけた。彼女の姿があった。