昔話稲妻表紙(むかしがたりいなづまびょうし) | 五郎のブログ

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桃源郷は山の彼方にあります

山東京伝は「桜姫全伝曙草紙(文化二年 (1805) 刊)」に続いて、翌三年に本作を刊行した。
前作は男女の愛欲そして女の嫉妬や執念が主題であったが、本作は忠義と孝行と家族愛が主題ではないかと思う。
もっともそれは建前で、前作と同様に残酷、凄惨、嗜虐的な場面が多くある、こちらが本当の狙いかも知れない。
最後で明敏な人物が謀略を解明する展開は、探偵小説の原型とも言える。
また見世物小屋が立ち並ぶ町の描写、特に薬屋と人体模型は江戸川乱歩の「白昼夢」などが頭にうかぶ。
原本では、始めに登場人物の絵姿と、それに因んだ俳句が画かれているので、それに倣って登場人物の紹介から始める。
 

昔話稲妻表紙の主な登場人物。
佐々良三八郎  佐々木家の家臣。忠義の為に無辜の女性を殺害

       し、妻子を連れて逃送 するが、妻子は怨霊に祟

       られてしまう。その罪悪感と悲哀を抱えながら

       も、ただひたすら忠義と家族愛の為に突き進む

       姿はジャック・バウアーを彷彿とさせる。             
磯菜       三八郎の妻。
楓        三八郎の娘、怨霊により妖蛇に憑りつかれる美

       少女。
不破道犬     佐々木家の執権、御家乗っ取りを企てる。
不破伴左衛門 道犬の息子、山三郎と間違えて彼の父を惨殺

       する。
名古屋山三郎 佐々木家の家臣、父親を不破一味の同僚達に惨殺

       されて復讐の旅を続ける。
梅津嘉門     孤高の軍師、世の中から隠れて母親と山奥で暮

       らす。
佐々木桂之助 佐々木家の若殿、不破一味の謀略にはめられて

       勘当される。
銀杏の前   桂之助の妻、道犬に拷問される美女。
藤波       桂之助の妾、三八郎に殺される美女。
阿龍(おりゅう)藤波の妹。
浮世又平      藤波の兄、画家。
葛城(かつらぎ) 遊女、幼い頃山三郎の許嫁であった。   

 

【図は立命館大学ARC古典籍ポータルデータベース hayBK02-0004 より 歌川豊国(初代)の挿絵】

不破伴左衛門、名古屋山三郎、ゆうくん(遊女)葛城
稲妻の始まり見たり不破の関        荷翠
笠ににねぐらかさめよぬれつばめ  其角  
傾城の賢なるはこの柳かな      其角
 

 

〇梅津嘉門
咲匂う梅津の川の花さかり
うつる鏡のかげもくもらず     為家卿

 

〇不破道犬 伴左衛門父
あの声でとかげくらふか時鳥(ほととぎす)  其角
〇白拍子藤波の幽魂
骸骨のうへを粧(よそ)ふて花見哉       鬼貫
食物(くひもの)もみな水くさし魂祭(たままつり)  嵐雪

 

〇六字南無右衛門(佐々良三八郎)
夕立や細首ちうに大井川       宗因
〇丹波国因果娘(楓)
蛇くふときけばおそろし雉子の声  芭蕉

 

〇貞婦磯菜
花瓜(はなうり)や絃(つた)をかしたる琵琶の上            言水
〇銀杏の前
うぐいすや鼠ちりゆく閨のひま   其角

 

〇旧家怪(ふるいえかい)
水風呂の下や案山子の身の終   丈草
〇浮世又平重起
大津絵の筆のはじめは何仏          芭蕉

 

〇佐々木桂之助国知、又平妹阿龍 
七月や暮露(ぼろ)よび入りて笛を聞く   其角
 (暮露は有髪の乞食坊主の一種、虚無僧)

 

【国立国会図書館デジタルコレクション  明19・2 刊行版より 香蝶豊宣(歌川豊宣・三世豊国の孫)の挿絵】

 

次回より本編になります。