戦う少女達 | 五郎のブログ

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桃源郷は山の彼方にあります

 戦う少女と言っても、トランプやプーチンに環境問題で喧嘩を売ったグレタや派手なコスチュームで敵と戦うセーラー戦士とは違って、貧乏で非力で孤立無援の状況でありながらも悪や困難に立ち向かう健気な少女である。

 岡本綺堂(1872年~1939年)の小説集「女魔術師」に収録されている「海賊船(大正8年)」に登場するお末は、まさにそんな少女である。
 時代は安政二年(1855年)四国丸亀藩士戸崎新九郎は、突然解雇され立ち退きを命じられる。
 彼は、妻と娘達(姉十五歳、妹十一歳)と身寄りのない女中お末(十七歳)を引き連れて、大阪の友人を頼って出発する。
 しかし、旅の途中で三人の娘は海賊船に拉致されてしまう。
 海賊船から、さらに一人の老人に、他の四人の年上の娘達と共に、彼女達は買い取られる。
 老人は、娘達を海賊から救うために買ったと言っていたが、実は海賊と同類で人買いに娘を売っている事にお末は気が付く。 そこでお末は姉妹を連れて逃走する。

 途中出会った軽業師一家に助けられるが、お末は騙されて姉妹を連れ去られてしまう。
 一人ぼっちになったお末は、絶望して自殺を何度も考えるが、なんとか姉妹を捜そうと乞食となって彷徨いながら大阪を目指して行った。
 大阪の目的の屋敷にボロボロになってたどり着くが、行き倒れて死人と間違えられて捨てられそうになるものの、なんとか救われる。
 ところが、新九郎はすでに妻と江戸に向かっていた。お末は旅装束になって東海道を再び追いかけて行く。
 果たして彼女は姉妹を救えるのだろうか・・・。
 この話で活躍するのは、もっぱらお末で、父親の新九郎の頼りなさは、どうしようもない。
 表題の「女魔術師」は捨てられた少女が旅芸人の一座に拾われて、女座長となって評判になるまでの話で、たくましい女性が主人公である。
 綺堂の代表作である「半七捕物帳」の「大坂屋花鳥」はとんでもない悪女であるが自由奔放に生きた女でもある。実在した人物をモデルにしている。
 火付けをして島流しにされるが、島抜けして強盗殺人、牢屋では同じ牢に入れられた娘義太夫の美少女達を毎晩もてあそぶなどやりたい放題。

 英国ミステリーの元祖ウィルキー・コリンズ(1824年~1889年)の「黒い小屋(1857年)」に登場する少女も必死の戦いに巻き込まれる。
 周囲に燐家が見当たらない寂しい荒地の小屋に住む、貧しい石工の父とその十八歳の娘。
 父は、離れた町から届いた仕事の依頼で出かける事にするが、町まで半日かかるので、一晩留守になる。
 父が出かけた後に、地主の夫婦が町に出かける途中で小屋に立ち寄り、妻は夫の浪費癖を問題視して少女に財布を預けて行く。
 さらにその後、二人の男が父に用があるとやって来る。一人はひどく評判の悪い石工で、もう一人は見た事のない男であった。
 父は明日までいないと告げて追い返すが、一人でいる事と財布の存在を知られてしまったかも知れない事が気掛かりとなる。
 家の近くで作業中の石工が大勢いる間は良いが、いなくなってしまった後は、助けてもらえる者は誰もいない。
 そして彼女の不安通りの事件が起きる。孤立無援の少女は、家に進入しようとする二人の悪漢と、それを阻止するために戦う事になってしまう。
 この小説集の解説で、身分は違うがコリンズの長編「白衣の女」に登場するマリアンの原型との指摘は納得する。
 とにかく、しっかりとした女性である。
 岡本綺堂は欧米のミステリーに詳しかったので、この小説を読んでいたのではないかと思う。


現実の出来事では、足を怪我して歩けない父を自転車に乗せて、約1200キロを7日で走ったという、インドの15歳の少女ジョティ・クマリも凄い。
自転車競技のナショナルチームからトライアウトのオファーを受けたというが、どうなったのか、気になります。