スピリチュアルファンタジー
『その後の泣いた赤鬼/アリとキリギリス』

泣いた赤鬼は利他の愛のお話ですが、その続編を書きました。
今の時代にこそ、読んでほしいお話。

Kindleでは第4位にランクインしました。



ペーパーバック版(紙書籍)は朗読アイテムとして
最適です!
どうぞご自由に朗読会などでお読みくださいませ。

購入頂くと、谷よっくるの作家活動の応援になります❗️


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絵は、めぐっぺさん です。


【泣いた赤鬼~スピリチュアルバージョン】


「泣いた赤鬼」という日本昔話があります。とても心暖まるお話ですが、赤鬼のために自らが悪者になって、村を去った青鬼がかわいそうと思った人も多いのではないでしょうか。

でも、本当に青鬼はかわいそうなだけの損な役回りだったのでしょうか。

これは、そんな疑問に答えるために書いた後日譚です。


・・・


さて、そのあとのお話。


赤鬼のために、自分が犠牲になり、姿を消した青鬼。

そのやさしさと友情に、赤鬼は、泣きながら、とてもとても感謝しました。

感謝しても、しても、全然し足りないと思いました。


そこで、赤鬼は真剣に考えました。

『姿を消した青鬼の友情に報いるには、自分はどうすればいいだろう。』

赤鬼は、何日も、何日も、真剣に考えました。


そして、


『そうだ。青鬼くんが私のために身を捨ててくれたように、

私も、村人たちのために働こう。

  私が青鬼くんに代わって、青鬼くんのように、村人たちのしあわせ

のために粉骨砕身、働くことが、青鬼くんからもらったご恩に報いる唯一の方法にちがいない。』


そう心に決めた赤鬼は、村に行くと、村人に

『何か困ってることはないか』

と尋ねました。

村人は、

「最近、日照りが続いていて、水が不足している。

近くの川から水を農地まで引けるといいのだが」

と言いました。


赤鬼は、

『そうか、お安いご用』

と言って、村から川までの水路を一人で掘り始めました。

赤鬼は、怪力でどんどん水路を掘り進めていきました。


そんな重労働はいやだと思っていた村人たちは、はじめは遠巻きに赤鬼をながめていましたが、

やかて、一人、また一人と、赤鬼の作業を手伝うようになりました。


村の子供たちも、

「家の手伝いはせんでいいから、赤鬼さんを手伝っておやり」

とお母さんに言われて、おっかなびっくり、赤鬼のところにやってきました。

最初は、赤鬼を怖がっていた子供たちでしたが、赤鬼や村人が頑張っている姿を見て、

自分にできる仕事はないか、それぞれが探し始めました。


いつの頃からか、夜になると、村人の誰かが酒を持って来るようになり、

夜は赤鬼を囲んで、みなで酒を酌み交わすようになりました。


貧しい村でしたので、そんなにたくさん、お酒が飲めるわけではありませんでしたが、

赤鬼は、村人の心遣いに感動しました。

そして、自分を囲んで、村人たちが楽しく語り合い、薄い味の酒を分かち合いながら、

歌ったり、踊ったりするのを見て、

赤鬼は、自分の心にあった、何か硬いものが浄化されるのを感じました。

そして、ますます『村のために頑張ろう』と、決意を新たにするのでした。


結局、川と村をつなぐ水路ができるのに、それから一年の歳月がかかりました。

水路の完成を祝って、誰かが

「この水路を“赤鬼水道”と名付けて、末代まで語りつごう」

と言い出しました。

みんな、

「そうだ、そうしよう」と賛成しました。


しかし、赤鬼は、

『この水路は自分一人が作ったんじゃない、

みんなの力を借りて、作ることができた。

だから、みんなの名前も入れてほしい』

と言いました。


すると、誰かが、

「みんなの名前を入れたら、長い長い名前になってしまって、覚えられんから、

やはり、ここは、みんなを代表して、赤鬼水道でいいんじゃなかろうか」

と言いました。

他の村人も、「そうだそうだ」と言いました。


赤鬼は、『それならば』と、みんなに青鬼の話をしました。

『自分がこれほどがんばることができたのは、青鬼が悪者役をして、

自分とみんなを友達にしてくれたからなんだ、

だから、青鬼のことも、みんなには覚えていてほしい』

と涙ながらに語りました。


村人たちも、

「そうだったのか、知らなかった」

と、もらい泣きしました。


「そんじゃ、青鬼の名も入れて、赤鬼青鬼水道にしよう」

と、また誰かが言いました。

今度は、みんな大賛成でした。


こうして、新しい水路は、赤鬼青鬼水道と呼ばれ、

末代まで赤鬼青鬼のお話とともに、語り継ぐことになりました。


それからも、赤鬼は、村のために数多くの仕事をしました。

赤鬼は、三百年生きました。

その間、村人たちは、十世代入れ替わりました。

三百年も生きると、赤鬼の面相も白髪、白ヒゲの仙人のようになり、体力も衰えたため、村人の代表に知恵を授ける長老のようになりました。


赤鬼は、村人の尊敬の対象になり、毎年、赤鬼の住むほこらの前で、お祭りが開かれるようになりました。

赤鬼は、村人たちの祭りをながめながら、酒を飲むのが何よりの楽しみになりました。


ある朝、赤鬼が目覚めると、ほこらの中にきらきら光る階段が現れていました。

赤鬼は、驚きましたが、

『これはきっとお迎えが来たな』

と思いました。

『自分の人生になんの未練も、やり残したこともない』

赤鬼はそう思いました。

そして、ためらうことなく、光の階段を登っていきました。


階段はとても高い階段でした。

登っても、登っても、階上に行き着きません。

けれど、少しも疲れないのです。

『これは、きっと、天国へと続く階段にちがいない。』

赤鬼は、そう思いました。


やがて、うっすらと階上らしきものが見えて来ました。

誰かが階上で、赤鬼の到着を待っています。

赤鬼は、一目で、それが青鬼だとわかりました。

赤鬼は、飛ぶように階段を駆け上がりました。


ふと、気づくと、赤鬼は若い頃の姿に戻っていました。

青鬼も、別れた時の姿のままでした。

赤鬼と青鬼は、がしっと抱き合い、再会を喜び合いました。

お互いの目をとめどなく涙がつたっていました。

赤鬼は、青鬼に何度も何度も、『ありがとう』をいいました。

青鬼は、ただ黙ってうなづいていました。


すると、二人の頭上に、天からの声が響いて来ました。


「「赤鬼、青鬼よ。あなた方は、見事に人生での課題をクリアされました。


あなた方の課題は、


                  友愛


を体験することでした。


そのために、青鬼が赤鬼のために村を去ることを、あなたがたは生まれる前に話し合って、人生計画で決めていたのです。


さあ、あなたがたの人生の結果をご覧なさい。」」


天からの声がそう告げると、

空中に何やら映像が浮かび上がりました。

それは、赤鬼がいたほこらでした。

村人たちが、ほこらを立派にお祀りし、熱心に参拝していました。


赤鬼は、その映像を見ると、顔を手でおおって、おいおいと泣きました。


天からの声が告げました。


「「あなたがたの示した友愛が、村人たちの心を打ち、

友愛の種をあの村に残したのです。


  赤鬼よ、今後、あなたはあの村の守り神となり、

彼らの子々孫々までを見守りなさい。

  そして、これからは、この天界で青鬼とともに仲よく暮らし、

時々は、光の階段を降りて、村人たちの声に耳を傾けなさい。

  あなたがたがまいた友愛の種がどう育つか、見届けなさい。」」


こうして、赤鬼、青鬼は、仲よく天界の住人となり、

今も、村人たちの子孫を見守っているそうです。


残念ながら、赤鬼青鬼水道と名づけられた水路は、その姿をとどめていませんが、

今も、どこかの村はずれに、赤鬼を祀った神社は残っているようです。


そして、赤鬼青鬼の友愛の物語は、昔話「泣いた赤鬼」として、

今も多くの人々に語り継がれ、人々の心に友愛の種をまき続けているのです。


どっとはらい


 

 2.別れ

 

 

 

 

 

3.トイレの神様

 



少女は神学校で学びながら、すくすくと成長していった。
校長は人格者として人気のある人で、生徒たちにも優しかった。
だが、巫女からの仕送りが途絶えると、態度は一変した。
少女は部屋を変わることになり、新しい部屋は屋根裏だった。
ずいぶん長く使われておらず、ホコリだらけ、蜘蛛の巣だらけだった。
窓もなく、あかりもない、真っ暗な部屋。
まだ年端もいかない少女には、酷な場所だった。
巫女は死ぬ前に蓄えのすべてを神学校に寄付していた。
そして、校長あてに手紙を書いて、少女が卒業するまで面倒をみてほしいと頼んだ。
それは巫女にとっては遺書となり、それを受け取った校長は、巫女のために祈る仕草をしたが、心の声は違っていた。
(これっぽっちの金で卒業までなんて、とんでもないことだ。ただ、今すぐに追い出すわけにもいくまい。世間での私の評判に傷がつく。ここは温情をもって、遇してやらねばならんな、しばらくは。)
ほとぼりが覚めた頃に少女を追い出してやろうという魂胆だった。
このようにひとの外見と中身は一致しないことがある。
みかけがよいからといって、だまされてはいけない。
もちろん、神様から見れば、そのようなことはお見通しのこと。
神学校の校長が神様の目を気にしないとは、なんと情けないことだろう。

少女はこうして天涯孤独の身となり、寄宿舎の屋根裏で暮らすようになった。
そして、校長の命令で寄宿舎の掃除をするようになった。
同じ年頃の生徒たちが楽しく過ごす場所で掃除をさせるとは、なんとむごい仕打ちであろうか。
少女はそれでも文句ひとつ言わずに掃除をした。
掃除をすると部屋がピカピカになる。
それが少女には嬉しかった。
掃除の場所はだんだん増やされ、トイレ掃除もするようになった。
最初はとてもつらかったが、トイレの容器をこするとピカピカと光り輝き、とてもきれいになるのを知ると、トイレ掃除が大好きになった。
トイレは汚くしていると、みんな嫌になるものだが、毎日使うところでもある。
毎日使うなら、きれいな方が断然よい。
使う生徒の間でもウワサになり、心やさしい生徒からは、
ありがとう
とお礼を言われるようになった。
それだけではない。
自分も手伝うと言い出す生徒がひとり、またひとりと増えていった。
トイレがピカピカだと、使う生徒たちの心もピカピカになるようだった。
こうして、生徒たちの寄宿舎では小さな奇跡が起こり始めていたが、別のところにある先生の使うトイレは汚いままなのだった。

あるとき、寄宿舎の生徒たちがトイレがきれいで気持ちいいという話をしているのを聞きつけ、校長は好奇心にかられて、寄宿舎に出向いた。
トイレに入ると、たしかに便器がピカピカに白く輝いている。
これはいい。是非、先生用のトイレもピカピカに磨かせよう。
校長は悪知恵を働かせて、少女を全校生徒の前で表彰した。
そして、学校全体のトイレ掃除委員に任命した。
仲のよい友達が
寄宿舎のトイレは私たちに任せて
と言ってくれたので、少女は学校のトイレ掃除をやることにした。
この学校には用務員がいて、学校の掃除をしているのだが、トイレ掃除を嫌がり、手を抜いているのだった。
少女は掃除を始める前に神様に祈り、無心にトイレをきれいにしていった。
トイレ掃除は、少女にとっては祈りの時間だった。
汚なかったトイレがきれいになると、学校の生徒たちの評判になり、生徒の親たちの学校への信頼感も高くなった。
その変化に校長は驚き、少女を追い出すのを思いとどまるのだった。


続く
 

 

1.出会い


 

2.別れ

赤子は成長し、かわいい少女になった。
人見知りする内気な性格で、ひとりで遊ぶのが上手。
草花や虫や動物が好きで、よく話しかけていた。
(人間は嫌いなのかしら。)
巫女は同い年の子どもと遊ばない少女が気になっていたが、そういう時期もあるのだろうと思った。
ともかくも、ここまで大きな病気もせず育ってくれたことに感謝するのだった。

巫女は毎晩、神殿で少女の健やかな成長を祈る。
すると、自分の心があたたかい気持ちに満たされるのを感じた。
それを愛と呼ぶならば、そうであろう。
その愛の思いは、どんどん広がってゆき、
この街に住む子どもたちの笑顔が脳裏に浮かび、その子らの幸せも祈るのだった。
祈りの時間は巫女にとって至福そのものだった。
(自分は愛する誰かの子どもを産むことはなかったけれど、こうして子どもを天から授かり、育てることができた。
この経験が自分を救ってくれた。
今は、この子のためなら、いくらでもがんばれる。
自分がしっかり働いて、この子を学校に入れてやろう。
教育は、きっとこれからのこの子の人生に
役にたつだろう。)

巫女は、働いて少しずつ貯めたお金で、少女を神学校に入れた。
そこは巫女の家から離れたところにあり、少女は寄宿舎で生活することになった。
不安そうな少女を馬車に乗せ、神学校まで連れていくとき、巫女はなんとなく誇らしく思えた。
少女と離れて暮らすのはさみしかったが、自由な時間も増える。
もっと仕事をして、お金を貯めよう。
明日はどうなるかわからない。
隣国が攻めてくるかもしれない。
疫病で命を落とすかもしれない。
自分がいなくなっても、少女が路頭に迷わないように。
信頼できる後見人にあとを託せるように。
巫女はなぜかせき立てられるように働いて、働いて、働いた。
やがて、無理がたたり、身体はボロボロになり、床に伏せるようになった。
だが、頭に思い浮かぶのは、少女のことばかり。
(あの子は自分がいないと生きてはいけない。
なんとしても生きなければ)
そう思うものの、身体は日に日に衰弱するばかり。
そして、ある新月の夜、巫女は悟った。
自分は今夜、死ぬことを。


3.トイレの神様