先月の尾瀬行きはヒビの入ったフロントガラスだったから、スピードを出し過ぎたりちょっとした段差を踏み越した瞬間にバリッといくんじゃないかとビクビクもんだったが、昨日は入れ替えたまっさらのガラスで見通しもよく、関越の水上インターを出て最初のセブンイレブンでおにぎりを調達。

見上げると　谷川岳の相耳峰のネコ耳が見え、頂上直下の雪に備えて　今日はちゃんとチェーンスパイクも持参。

３時起きして５時１０分にベースプラザの下にクルマを滑りこませ、頂上まで５時間と見て　１１時ごろに上に着けば御の字だな。

もうこのごろは、自分の体力の限界を知るために登ってるようなもんだし・・・

日本三大急登の一つといわれる西黒尾根の登山口をやり過ごし、もう一つ奥の巌剛新道の登り口まで・・・

７，８年前に一ノ倉沢まで足を延ばした際に、なんともそそられる巌剛新道の登り口を見てしまい　それから毎年来ている。

ヤマブキショウマ

谷川岳は花の山。

どんな花も見過ごすまいとキョロキョロし、クマといつ出会っても逃げる前に写真を一発と心構えをしながら行くと、

え～、あんなに逢いたかったショウキランが咲いてるやないか！

鍾馗蘭。葉緑体を持たずに菌類に寄生する腐生植物で花の咲くのはたった１週間。

この７年で偶然に一度だけお目にかかったけど、なかなか時期が合わずに毎年あこがれてはガッカリしてたのになんということだ。

大体　土曜日曜の道路や山の混む日はパスし、近くにゴルフの予定のない雨が降らない日とゼイタクを言ってりゃなかなかめぐり合えるもんじゃないけど、ちょうど咲き初めのキレイな姿をこんなところで拝めて、もうこのまま帰ってもいいかと思ったほど。

天気は良し。

下からこれほどくっきり頂上が見える朝も久しぶり、ということは暑くなるな～。

水分は凍らせた水と麦茶のペットボトルの計２本。

上の肩の小屋で１本５００円の水を買う計算で、それでなくてもチェーンスパイクを背負ってるし　荷物はなるべく軽めにしたいところ。

ショウキランのところで時間を食ってしまい５時５５分、イザ山登りスタート。

センブリの仲間？

山道に踏み込むとすぐに森の匂いがしてきて　胸いっぱいにその空気を吸って俗世間の汚れを追いやり、

道の上を水が流れているいつものところを　踏み石伝いに渡って

ゆっくりゆっくり急ぐ旅じゃないし、昨日もおとといも、明日も明後日も　なにか用事があるわけじゃなし。

♪静かに　静～かに～

「星影の小径」のリズムがピッタリくるな。

巌さんと剛さんの二人が切り開いたという巌剛新道は、どんだけいかつい男タチだったんだ？

そっちダメね。

カラマツソウ。

ノラニンジン？

天気は文句ないけどアチィ～～

半ズボンにすればよかった。

ウチに咲いたソバナとソックリの葉っぱだな。

もっとも最初にここで見たのが縁で、マネして植えたんだが　その時見た株がこれだったのかも・・・

振り返って見た白毛門の方の空。

冷凍にして持ってきたクーリッシュは半分融けかかり、こんなの早くやっつけた方がリュックが軽くなると三口でチュ～と飲み込んで甘～い。

７時チョい過ぎ、大体予通りの時間で第一見晴らし到着して見えるマチガ沢の絶景。

去年の雪はこの半分以下で、途中の大岩から瀧が流れ落ちてるのが見えたけど、今年は雪が多いな。

頂上直下の雪渓も、チェーンスパイクを用意することなんか今までになかった。

ヒグラシの鳴き声に、時々ウグイスも交じり、

見通しのよいところでは、立ち止まってカメラを構えて一息入れ、もっともこの巌剛新道の良いのは　ずっと右手にマチガ沢の雪渓を見ながら登れるところ、西黒尾根じゃそうはいかない。

崩壊地は、細いトラロープを必死に掴んでやり過ごし、

前にショウキランを見た、ブナの大木の根元辺りを探しても影も形もない。

下で咲いてたということは、ここじゃまだ早いということか？

トンボがウヨウヨ飛び、ヤツラが虫を食べててくれるおかげで、こちらが煩わされることがない。

雪の重みで根元から曲がってるブナの木。

因縁のタニウツギ

ずいぶんと上まで雪が残っている。

鉄ハシゴが日に照らされて熱い。

ゴクゴク飲みたい水も　上まで持たさなきゃとチビチビ飲んで、

キイロと白のハナニガナ。

茎を折ると苦味のある乳液が出るって　ダレか舐めたのか？

右手に力を入れるとゴルフでやったヒジが痛むが、そんなことは言ってらずに力技でよじ登り、

オ～、やっと巌剛新道を抜けた。

西黒尾根との合流地点はガレ沢のアタマ、向こうに上州の山々が見える。

９時丁度、スタートしてから　もう３時間かかってる。

バイカルハナウドじゃないよな。

ニッコウキスゲも咲いてここからザンゲ岩までが一番キビシイところ、日陰はなく直射日光にさらされても、花を楽しみながら気を紛らわせて行くぞ～と・・・

♪　いいのいいから　ツケは帳消し

イワシモツケ

キイロの印を目印に。

去年は曇っていてまわりが見えずにが役立った。

振り返って見下ろした西黒尾根。

真ん中の鞍部が、左から来る巌剛新道とのが合流地点。

ダイモンジソウに似てるけど・・・

イブキジャコウソウの匂いをかぐのに崖っぷちにカオを寄せ、

♪　新宿駅裏　紅とんぼ～

タテヤマリンドウ

♪想い出してね・・・時々は～

アカモノ

コイワカガミ

ウシロから来た兄ちゃんたち６人組。

大学生？

そんなに腕、真っ黒でなにやってるんだよと聞くと

「サーフィンです」

う～ん、山にサーファーはお似合いだな。

終わりかけのハクサンコザクラ。ユキワリソウとの違いが　もう一つわからない。

滑る蛇紋岩に両手をついて慎重に登り、

ウラジロヨウラク

仏様が身につけている瓔珞に形が似てる。

キジムシロ

エビネチドリ

マチガ沢の雪渓をバックにホソバヒナウスユキソウ

キンポウゲが沢山咲けば、ザンゲ岩。

ここまで来ればあと一息だが、ガレ沢の頭から１時間５０分もかかってる。

♪　あれは２月の寒い夜～

虫を食べるトンボを食べるツバメ。

あちらは尾瀬の方だろうか・・・

谷川岳名物のケルンが小さく見えて、もう一息。

登りはチェーンスパイクは必要ないだろ。

他人の歩いた足跡の上に足を重ねて、

ヘリのところの雪は　けっこうな厚みがあるな。

もう少し。

だが途中で立ち止まって写真を撮るのはちょっと慎重を要す。

上りきって、

雪を割ってハンドタオルで包み、麦藁帽子の中にいれてかぶってグッドアイディアと自画自賛。

谷川岳トマの耳到着は１１時４５分。

５時１０分、ベースプラザをスタートしてから延々６時間３０分がかり、登り口からだって５時間５０分かかってる。

水もないし、ここまで上ってきた花の様子も　いつもとは少し様相が違う。

あのオキの耳の先に咲くムシトリスミレも　もう終わってるだろ。

ショウキランも見たことだしと、もうアッチはパス、それに　今日は山を降りてから行かなくちゃいけないところがある。

肩の小屋で、カラのペットボトルと交換条件に水２本を仕入れ、

霧の深い日に小屋のありかを知らせる鐘をみて

チェーンスパイクを履いて　チャッチャッと雪渓を下りゃ、

ロープウウエーで来た人たちは、逆の登りで苦戦中。

オバサンがスベって転んで、「ズボンびしょびしょだよ～」

いい景色だな～。

こういうのが見れただけで、今日来て正解だな。

ゴゼンタチバナ

雲もgood。

下りの雪渓で、また雪を大目に掴んで入れておいた帽子から　しずくがポタポタ。

脱いでみると融け残りが　もうわずか。

「またお会いしましたね」とウシロから来たサーファーに言われ、　オレはヒヨッて手前の耳でユーターンしたからな。

２本買った水も残り少なくなって　谷川岳も遠くなり、

サイゴのギンリョウソウを見て、

帰り着いたロープウエーの駅にはクマの写真は撮らない。

見たら撮るだろ。

１２時に肩の小屋を出てヨレヨレの２時間５０分。

ほとんど１０時間も谷川岳を彷徨ったけど、下りのロープウエーに乗って、クルマに乗りかえればこっちのもん。

いつも帰りに寄っていた日帰り温泉の「湯テルメ・谷川」が営業終了と聞き　どこかいいとこないかと探したら　太宰ゆかりの温泉があるというではないか。

水上は太宰ゆかりの地か・・・

途中の石碑を見て、

昭和１１年、太宰がパピナール中毒の転地療養を川端康成に勧められ一ヶ月近く滞在したという旅館が日帰り風呂もやってると聞けば行くよな。

当時の旅館とは名前も経営も変わってるらしいけど、太宰が滞在した部屋を再現したところやゆかりの品々が展示してあるというので　とりあえず風呂を借りると露天風呂は普通より深く、昔の女性は立てひざで入ったから深いと・・・混浴だったんだな。

再現したという部屋の左に写真が飾ってあって、

銀座の「ルパン」というバーの背の高い椅子にゲートルの足を乗せてる有名な写真だが、反対側の本棚には

紅い腰紐を二人で結んで玉川上水に身を投げた山崎富栄と、

ここを舞台に描いた「姨捨」のモデルと言われる太宰の内縁の妻、小山初代の写真が飾ってあって、

「水上みなかみに行こう、ね。」その前のとしのひと夏を、水上駅から徒歩で一時間ほど登って行き着ける谷川温泉という、山の中の温泉場で過した。真実くるし過ぎた一夏ではあったが、くるしすぎて、いまでは濃い色彩の着いた絵葉書のように甘美な思い出にさえなっていた。白い夕立の降りかかる山、川、かなしく死ねるように思われた。水上、と聞いて、かず枝のからだは急に生き生きして来た。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（太宰治　姨捨より抜粋）

以前太宰が過ごした旅館が建っていたという駐車場の片隅にも石碑が建っていて

「池水は濁りににごり藤波の　影もうつらず　雨降りしきる」伊藤左千夫

青森の芦野公園の太宰の碑もヴェルレーヌの詩、ここも左千夫の歌、石碑を建てる際に本人の書いたものじゃ太宰が照れるからと、相談された友人が選んだんですかね～？と　ワザワザ案内についてくれた太宰と同じ青森出身だという番頭さんに尋ねたが　さ～？と首をひねるばかり。

作家の書いたものが本筋だけど、学生時代の学生証や定期券も飾ってあり、代替わりした旅館の社長さんもよく集めたもんだ。

月曜日の関越は思いのほかにすいていて、夜７時には帰り着き、疲れでグッスリ寝込んで熱中症になったらかなわんとクーラーの効いたネコ部屋でネコと一緒にオヤスミ・・・

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