M.C.スミス。ハバナ・ベイ:その緻密な文学世界 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 

マーティン・クルーズ・スミスのアルカージ・レンコ・シリーズ第4作『ハバナ・ベイ(1999)講談社文庫』は、このシリーズの邦訳分としては最終巻。第1〜3巻出版時に「三部作完結」のクレジットが入っていたのだが、本作第4巻は6年ほども経て出版され、初刊から実に20年ほど要している。

 

レンコ・シリーズは現在も継続中で第10巻まで出版され、最新刊『Independence Square: Arkady Renko in Ukraine(2023)』ではウクライナが舞台。相変わらず体制の意向はさておき真相をつきとめるべく奔走するのだろう。

 

 

さて、レンコはかつて敵対し現在は奇妙な友情すら感じている元KGB(現キューバ大使館の砂糖担当の)プリブルーダ大佐がキューバで事故死し、その遺体の確認と引取りのためにハバナに赴いたレンコは、到着した途端になぜか命が狙われる。大佐の死に疑問をもったレンコは事故死を担当するキューバ革命国家警察の女刑事オフィーリア・オソーリョと微妙な関係を保ちながら真相に迫っていく。

 

すっかりM.C.スミスにはまってしまい。本作品の内容は優れたキューバ紀行文であり、部分的にはドキュメンタリーのようでもあり、日常画の片隅で事件が起きているヒロエニムス・ボッシュの絵のような印象を持つ。また、レンコ・シリーズは(ハードボイルド風)スリラーという前に、なんだか文学世界の持つ緻密に構成された奥深さに魅了される。部分的にわかりずらいところがあるが、これも再読のための動機として歓迎している。