横光利一:上海。都市空間のなかの文学 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

映画 上海から来た女(1947)リタ・ヘイワース

 

文学作品に描かれた都市を解析することで、その時代を都市学の目線で読み解こうとする研究家、前田愛の『都市空間のなかの文学(1982)筑摩書房』そして、前田よりややくだけた内容の海野弘『モダン都市周遊(1985)中央公論社』はともに横光利一『上海』で一章を設けている。

 

横光利一は1925年5月30日、排日運動のきっかけともなった上海労働者によるゼネストと、発砲による暴動を現地に取材して書きあげたのが『上海』で、同時期に発表された短編『機械』ともども彼の作品の頂点をなすものである。『上海』における主人公参木と中国共産党の女闘士芳秋蘭とのロマンスも

 

(他の女性との関わりも含め)今となっては書割な内容になってしまったが、横光描く都市における風俗と暴動の描写はその時代を鮮やかに伝えている。

前田愛:都市空間のなかの文学(1982)筑摩書房

海野弘:モダン都市周遊  (1985)中央公論社

 

欲望と頽廃の都市〝魔都〟上海の、下層社会における労働者の暴動や娼婦たちによるアンダーグラウンドを、横光は都市文学として(近代以降の日本文学史上)はじめて描いたことになる。新たな都市相を発見し咀嚼されその相貌をを変えていく。上掲二著は『上海』を理解するによい手引きとなる。

 

The Lady from Shanghai