伊沢蘭奢。朝井まかて 輪舞曲 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

Madonna- Madame X Tour

 

大正半ばから急死する昭和3年まで活躍した新劇の女優伊澤蘭奢は、オッペケペー節で知られる新派劇の創始者川上音二郎の妻で女優の貞奴→島村抱月「芸術座」の松井須磨子→その松井須磨子の自死によって低迷期に入る新劇を支えたのが上山草人「近代劇協会」→畑中蓼坡「日本新劇協会」に参加した伊澤蘭奢で

 

彼女の死後活躍する水谷八重子や杉村春子の橋渡しとなった。今では忘れられた女優さんで、少し前に夏樹静子『女優X』で知ったばかり。その蘭奢の遺稿をまとめた『素裸な自画像(1929)世界社』の復刻版(1999)と、彼女を主人公にした朝井まかて『輪舞曲(2020)新潮社』を読んでみた。

 

朝井まかて:輪舞曲(2020)新潮社

 

大正時代はある意味で恋愛至上主義的な実験期であり、イプセンの戯曲『ノラ』のように、女性が自立に向かって行動する時代でもありました。蘭奢が夫や子どもを捨て婚家をでて27歳にして女優を目指すという破天荒な人生、その真摯にして濃密な10年という女優人生をどうとらえるべきか。

 

作品は蘭奢と彼女を取り巻く関係者(われらが新潟県出身)内藤民治、徳川夢声、後に遺稿をまとめる福田清人、蘭奢のひとり息子伊藤佐喜雄らの語りによって展開する。朝井まかてらしい(当時の時代相を取り入れながらの)過不足ない伝記小説ながら、いつも思うのだが、その職人的ともいえる仕上がりに感嘆すると

 

同時に、いくばくかの破綻や破調があってほしいような読後感も併せ抱く。イラストは伊澤蘭奢の最後の舞台となった『マダムX』と同名のマドンナのアルバム宣材から。