上橋菜穂子:風と行く者。不幸は死ぬことじゃない | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

ドラマ 精霊の守り人のバルサ(少女時代)

 

上橋菜穂子『風と行く者(2018)新潮文庫』の文庫新刊が発刊されたのでお盆休み用の読書に。「精霊の守り人」シリーズ「外伝」の本作では主人公バルサの少女時代が描かれる。警護を依頼されたバルサは(わが国の催馬楽や勧進に似た)遊興と鎮魂の民「風の楽人」に対する執拗な襲撃にあって、20年前にジグロとともに受けた同様の襲撃を思い出していた。

 

かつて守り人シリーズ『炎路を行く者』の一章「一五の我には」として挿入されたエピソードが本作品となってよみがえる。もともと長編の意図があったものの断絶していたとのこと。この大河ファンタジーは、NHKドラマ綾瀬はるか主演で映像化もされ原作ともども大変気にっている。外伝出版は嬉しい。

 

精霊の守り人 ジグロとバルサ

 

蒼路の旅人(左)  ドラマ「悲しき破壊神」より

 

 

さて、バルサは養父ジグロの子どもかもしれないサダン・タラム(風の民)の若き女頭エオナと邂逅することで、ジグロとともに闘った20年前の襲撃を回想しつつ、当時抱いた謎が徐々に明らかになっていく。バルサは「おれたち(護衛士)にとって不幸は死ぬことじゃない。刃の前に身をさらすのがおれたちの仕事だ。死ぬのを不幸と思うなら、こんな仕事をしていない(p.288)

 

「わたしは人を殺して生きのびてきた。そんなわたしでも、生きていていい……息をしていいんだと思えるのは、この路の上しかないってことだよ(p.272)」この大河ファンタジーは一級のハードボイルド作品でもあり、そうしたハードな世界であるからこそ一掬の涙を添えるにふさわしいのだ。