藤沢周平。用心棒日月抄 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信


藤沢周平『用心棒日月抄』初編で政変に巻き込まれた主人公青江又八郎は、やむなく許婚の父を斬って脱藩、江戸に逃れ浪人となると口入稼業を営む相模屋吉蔵から用心棒などの仕事を紹介してもらい、日々米びつの中を心配しながら暮らすことになる。それでも高度成長期の作品とあって、空腹に顔をしかめながらも

 

青江又八郎には「なんとかなりそうな」明るい気が漂う。この作品はNHK金曜時代劇『腕におぼえあり(1992~93)』村上弘明主演で映像化された。浪人仲間に渡辺徹、陰気で吝い口入屋に(ピッタリの)坂上二郎、藩の隠密組織・嗅足(蔭葦=隠密)組の女頭目に(当時新人の)黒木瞳とキャスティングもよかった。

 

 

青江又八郎は初編で藩への復帰が叶うが、以降(新刊のたびに)三たび藩の密命を帯びると浪人することになる。ところで、藤沢周平は教師時代に当時死病といわれた結核を煩い(故郷を出て)長い闘病に入る。回復後も病歴が疎まれて故郷へ復帰がかなわず、記者など職歴を重ねながら作家デビューする。

 

藤沢の武家ものは多く上司に翻弄される下級武士を描き、サラリーマン小説の時代劇版といわれるのはその頃の苦労を反映したものだろう。また(出身地である山形鶴岡を想定した)架空の海坂藩を舞台とした作品は、作者にとって帰るに帰れなかった故郷への屈託も反映したものか。

 

 

藤沢周平の『用心棒日月抄(1978)新潮文庫』4部作は文庫化以降、80刷以上を重ねた超人気シリーズで、第2部「孤剣(1980)」続けて「刺客(1983)」16年後の後日譚「狂刃(1991)と書き継がれた。第3部までがお得意の短編連作、最終編が唯一の長編。

 

 

古本屋で比較的綺麗な『用心棒日月抄』のセット文庫本を見つけたのを機会に(4度か5度目の)通読をした。古い映画を繰り返し鑑賞するような感じで。自作のカバーを被せて。