獅子文六。春の味覚 鹿児島の酒鮨 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

先日、知人から山菜〝こごめ〟をいただいたので、さっとゆがいて美味しくいただいた。雪国の春は山菜にしくはない。獅子文六も食い道楽の随筆『食味歳時記(1968)文藝春秋』で、山菜料理を取り上げていて、まずは(念願の)鹿児島の酒鮨はまったく独特で、スシと称しながら酢を用いず、酒を混じる。

 

それも日本酒ではなく(あの地方で地酒と呼ぶ)ベルモットに似た酒を驚くほど大量に飯に混ぜる。飯は木桶に三層に、一層は桶いっぱいに木の芽が、次の層はタケノコ、その上に友禅模様のようにあらゆる魚介が。それにさつま揚げや卵焼きの味が混合して「陽春そのものを口の中に入れた感じ」だった。

 

 

幸田露伴は(当時は田舎の)向島に住んでいたところから、二枚の薄い杉板の間に味噌を挟み、火で炙り味噌に杉の香りを移すと(腰のひょうたんには酒を詰めて)野に摘み草に出かけては、その萌えだした野草を摘んでは、生のまま味噌をつけて食った。野生のネギのようなノビルが酒のつまみに絶好。なととある。