幽霊塔の宮崎駿 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 

江戸川乱歩「幽霊塔(1937)岩波書店」は〝今さら本〟ながら、いわゆる僕ら世代にありがちな最初の読書体験が「乱歩」ということで、三つ子の魂は死ぬまで抜けないのですね。冒頭に宮崎駿によるカラー版コミック解説が16ページ附属していて、どうやら中高生向けなんでしょうね。

 

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 江戸川乱歩 幽霊塔(1937)岩波書店 2015年

 

「幽霊塔」は江戸川乱歩が少年時代に読んだ黒岩涙香の同名作品をリメイクしたもので、涙香版はイギリスのアリス・M・ウイリアムスン「灰色の女」を翻案したものです。日本近代の大衆小説は、中国の「三国志」「水滸伝」の影響を受けた滝沢馬琴「南総里見八犬伝」などの伝奇ものの流れ

 

落語や講談の口述筆記から「新(創作)講談」へと進んだ主に時代(→歴史)小説の流れ、そしてデュマ、ゴアゴベなど黒岩涙香が翻案した活劇や探偵小説。尾崎紅葉「金色夜叉」などは米B級メロドラマの翻案もので、明治時代以降「家庭小説」というジャンルを確立し、戦後はラブコメ路線に合流します。

 

ユーモア小説は、江戸期の黄表紙、艶笑、駄洒落に落語といった分厚い地盤に、夏目漱石「猫」やマーク・トウェインに触発された佐々木邦が(幾分教養小説、成長小説の一面を持つ)近代ユーモア小説をスタートさせました。他方でユーモア随筆の分野も広がりをみせ、近代の大衆小説はこうして厚みを加えていきます。