picture diary.111 眠狂四郎
眠狂四郎は、中里介山の机竜之介→森尾重四郎→堀田隼人→丹下左膳→新納鶴千代と続くニヒルの系譜につながるが、柴田錬三郎が生み出したこのヒーローは自律的造形が徹底され〝独歩〟な人生観を持つ意識的な人物であり、まさに現代(戦後)的なキャラクターが登場したことになる。
踏絵によって〝転びバテレン〟として生き伸びた、切支丹神父ジュアン・ヘルナンドは黒魔術に魅入られると、自身を取り調べた大目付松平主水正に仇なさんと娘・千津を犯す。結果混血として生を得た眠狂四郎は「ニヒリズムを飼いならし」かつ秘剣を会得したことで、善悪を超越した人生律を身につける。
柴田錬三郎:眠狂四郎独歩行(1961)新潮文庫
A.K.ル=グウィン:世界の果てでダンス(1989)白水社
眠狂四郎は田村正和(による最後の)主演でテレビ映像化との予告を観たが、柴田錬三郎はこの田村の(最初の)テレビ版を好んだといわれる。とはいっても、狂四郎といえば市川雷蔵を挙げないわけにはいかない。説明はいらないだろう。加えて平幹二朗、片岡孝夫版なども記憶に残っている。
図書館の除籍本コーナーで見つけた(手づれでぼろぼろになった)「独歩行」のカヴァーを自装して再読している。狂四郎は自嘲ぎみに「わたしは、常に独歩している、敵にまわして頂いたほうが、気楽なのだ。そういう男なのだ、わたしは…(上巻289p)」と語っている。
埋草コラムから:月刊 myskip掲載(2016.03)
もう一冊、「闇の左手」「ゲド戦記」で知られる、SFの女王アーシュラ・K・ル=グウィン「世界の果てでダンス」も頂戴した。懐かしい。最近ちょっとSFづいている。まだところどころ拾い読みしたばかりなのだが、フェミニズムの論客なんですね。こちらも自装カヴァーで。