ユーイングの〝カルメン〟 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 sketchbook.071 マリア・ユーイングのカルメン

 

カルメンのはまり役と言えば(スペイン出身の)大好きなテレザ・ベルガンサを思い浮かべるのだが、まぁ1980年の舞台なので画質がいまいちで演出も古くさい。取り寄せたアンネ=ソフィ・フォン・オッター版はなんといってもBBCの演出と撮影が素晴らしい。気品が持ち味のオッターは卑俗に徹した演技ながら、ちょっとやりすぎ感があるのかな。

 

Youtubeに前ブログで紹介したマリア・ユーイング版がきれぎれにアップされていて(あのケルビーノに)カルメンはムチャぶりかと思いきや、彼女なりのカルメンを巧みに演じている。彼女の父はスー族のネイティブ・アメリカン、スコットランド人及びアフリカ系アメリカ人、母はオランダ人という複雑な家系が一因とは思わないが、複雑多彩な表現ができている。

 

 2幕冒頭:ジプシーの歌から

 

 ジブシー男は 腕も折れよと 力を限りに

 楽器をかき鳴らせば 目もくらむ 

 どよめきのなか ジプシー女は有頂天 

 歌のリズムに身をのせて 燃えて 狂って 燃えあがり

 踊りの 渦に身をまかす 

 ララララララ…

 

メリメの作品を基に作られたオペラ「カルメン」は1875年3月3日、パリのオペラ=コミック座で初演された。つまり明治8年に、奔放淫蕩にして(最終的に恋と性によって亡びるにしろ)誰も制御することができない、自由無比な女性カルメンが誕生した。日本では大正時代に入ってようやく、カルメンを彷彿する有島武郎「或る女(1911-1919)」の葉子が登場する。