よみがえる芥川龍之介 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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 関口安義:よみがえる芥川龍之介(2006)日本放送出版協会

今までの芥川龍之介像はといえば、腺病質で気弱な性格、個人主義的芸術至上的なイメージが形成されてしまっているが、関口安義が再構築した人物像は、作品に社会問題を滑り込ませるような健康的でリベラルな思考の持ち主として描かれている。こうした新たな読み取りは1990年代以降とのことで、日本のみならず韓国を含む海外などでも多くの研究が発表されているらしい。「芥川はモダニストであるだけでなく、ポストモダンを開拓する作家ではなかったか(ジェイ・ルービン)」と、その現代性先見性を評価している。

またここでは、ジャールやベロナールによる睡眠薬による自殺説から、山崎光夫がとなえた青酸カリによる説を支持。加えて、芥川の小説や小穴隆一の証言から、これまで妻の友人・平松ます子による自殺幇助が定説だったが、これを冤罪であったと論じ、平松はかえって妻や知人たちと自殺阻止に努めていたらしい。本作の清新な芥川像にふれながら、改めて芥川の短編を幾つか読み返してみたところ、今まで思い描いたことがなかった異質な風景が浮かび上がってくるから面白い。

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 サラ・パレツキー:セプテンバー・ラプソディ(2013)ハヤカワ文庫

今年初に発刊されたシリーズ最新刊の買い置き本をようやく読んだ。女探偵V.I.ウォーショスキーとは初編からの長い付き合いで、新刊本がでるとつい買ってしまう。そういえば当初は30代だったはずだか今では50才を少し越えてしまっている。今回は人探しの果てに水爆開発やコンピュータ開発黎明期の秘められた(戦前の)過去が明らかになっていくという広大な事件を扱うが、近年作者はこうした歴史絡みの作品が多くなってきている。

個人的には、自営探偵に見合った初中期のもう少しこじんまりとした作品世界が好みだが、まぁ壮大だからといって貶すものではありませぬ。2011年、サラ・パレツキーはグランドマスター(巨匠賞)を受賞した。心からお祝いする。