今野敏の隠蔽捜査シリーズ | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
今野敏
 今野敏:隠蔽捜査シリーズ

今野敏「隠蔽捜査(2005~)新潮文庫」の主人公・竜崎伸也は警察庁長官官房の総務課長、いわゆるキャリア官僚のエリートながら、身内の不祥事から大森署の署長に降格された。通常であれば職を辞するのが普通なのだが、変人(妻からは唐変木)といわれる人物で「まったく意にかえさず」現場の仕事に没頭している。ちょうどTVドラマ「相棒(2000~)」杉下右京の署長版というところなのだろうか。合理的な思考行動こそが捜査の基本と定めてゆるがない。

一朝、事件が起きて本部から偉ぶつがやってきてもせいぜい警視、もともと本人が警視長の階級だからおもねることもないし、もともとそんな気もない。本来警視長の階級のものがいるはずがない所轄の署長に納まっていることと(本人の極めてシンプルな合理的性格)から、警察機構の制度のゆがみが見えてくる。ただ、家庭では風呂も湧かせないというほどに妻に依存しているため、事件「果断」では妻の入院という事態に、つい集中を欠き危機を招来するはめになる。

シリーズ3巻「疑心」では、米大統領の警備役として(本来署長クラスが任じられるはずのない)方面本部長のひとりに任命される。しかも、あろうことか彼の補佐に派遣されたかつての部下(女性キャリアの)畠山美奈子に惚れてしまう。本人も「なんだこれは?」と、恋に気がつくまでに時間を要するという朴念仁ぶりを示しつつ、これでは仕事に集中できない。機をみて足を引っ張るものもあり、やはり危機に陥るが、果して…

狛犬尽くし
 長岡市の狛犬尽くし(2003)

いわゆるパターン展開ながら、中間部のゴタゴタをへての終盤の巻き込み具合がなかなか見事で、結構読ませてくれる。一本気な性格のものから(警察という)社会を展望すると見えてくる歪みというのは、古くは白井喬二「盤嶽の一生(1932)」の系譜とみていいだろう。いただき本で今野敏を読むのは初めて。まぁ風呂につかって読むに最適本で、現代版「大岡越前」と思って読んでみましょう。このシリーズは大当たりです。

なお、隠蔽捜査シリーズ〝3.5〟「初陣」は、竜崎の同僚キャリア警視長刑事部長・伊丹俊太郎を主人公にしたスピンオフ作品、短編連作。案外「相棒」の影響を強く受けているのかもしれない。