
女の一生
帰り路にほの白く浮かんだ若い女性の顔は、無機質な面持ちでスマホを覗き込んでいる。顔だけが半月面のように闇に浮き出る。蒼白い電影に照らされたあなたは息をしているのですか。
ほの白く闇に浮かびし電影の半月面を彼岸(ひが)より照らす
おちこちにバックライトの蔭冥らし月なき街に灯す蛍の
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川上三太郎:女の一生(昭22)グラフ社/小野佐世男装丁

小野佐世男挿絵
古今の川柳を寄せ集めて女子の誕生から晩年までを描く、川柳版「女の一生」。挿絵を眺めても髷に着物だったり、唐傘を干していたり、女性を眺める分にはいい頃です。
泣く時の櫛は炬燵を越して落ち (古川柳
泣き伏した机一輪挿しが揺れ (迷作
新婚は時計のように社から退け (初雁城
新妻が迎ひの雨具うれしい日 (無骨
手ぬぐいを絞る女は口を曲げ (家路郎
一句一句に小野の挿絵が附された堪能本。前々からねらっていたものが、ようやく。戦後すぐ本で紙が酸化して脆く、赤子を抱くがごとくであります。