
近松もの人形浄瑠璃「曾根崎心中」を観た。昨年なくなられた人形遣い吉田玉男の追善公演、弟子の吉田玉女が徳兵衛を遣っていた。手元に近松集があったので、意味不明の言葉は本文をたどりながら観ていた。いまはてだいとむもれぎの、きじょうゆのそでしたたる… 「むもれ木(手代として世間に埋もれた身分)の生醤油の袖」テキストがないと解りません。ラスト、死にいく道行きの内容は手元の本と違うようで、改作したのか異本があるのか。お初徳兵衛の最後は泣かせます。吉田玉男の名場面集がおまけにあって「俊寛」では、迫真の遣いに思わず拍手が出てましたね。カクカクとした人形特有の首の動き、決めの見事さなどさすがの遣いぶりです。亡くなられていたのですね。

戦前の雑誌「キング」から小田富弥「心中火取虫(子母澤寛)」と鴨下晃湖「関の弥太ッぺ(長谷川伸)」の挿絵、ひいき筋です。小田は最良の作品のひとつでしょうね。丹下左膳の後の仕事でしょうが一番脂がのっていた頃ではないでしょうか。キングは現在の講談社によって発刊された雑誌で、挿絵画家の間ではキングに載ったら一流と思われていました。講談社の名のごとく、設立の目的は講談落語の口述筆記本の出版でありました。




お約束の横溝正史「犬神家の一族」最終一回前の富永謙太郎の挿絵です。3枚目で珠代さんがニセ佐清(すけきよ)に襲われております。危うし珠代であります。ごらんのとおり皆さんスキー三昧で、原作では雪深き冬の信州が舞台でした。こちらは戦後昭和20年代のキングに掲載されたものです。この後、いよいよ雑誌挿絵の全盛期を迎えます。私はその時期に生まれたのですね。昭和24年生まれの兄はラジオ時代に片足をつっこんでますが、私はまさに雑誌とTVの世代です。それによって得たものと失ったものは何だったのでしょうね。