田村明子さんのコラム | Il nome della rosa

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10月24日シカゴ郊外のホフマンエステーツで、GPシリーズ開幕戦のスケートアメリカが開催された。男子は唯一日本男子の代表として出場した町田樹が優勝し、2年連続のタイトルを手にした。

完璧な滑りだった町田のSP。

 町田はSPから、堂々とした風格のある演技を見せた。曲は『ラベンダーの咲く庭で』のサントラ。五輪プログラム『火の鳥』なども振付けたフィリップ・ミルズによる振付である。12人中最終滑走だった町田は4+3コンビネーションジャンプをきれいに成功させ、最後まで完璧に滑りきり、93.39と2位のジェレミー・アボットに10ポイント以上の差をつけてトップに立った。SP後の会見で、町田はこうコメントした。

「今季初めての試合で、このプログラムの初披露。緊張もしたし、プレッシャーもありました。その意味では大きなミスなく滑ったことを誇りに感じます」

満場のスタンディングオベーションを得た町田のフリー。

 新フリー、ベートーヴェンの『第九』は、ことさら思い入れの深い作品だという。昨シーズン、全日本選手権のフリーに向かう直前に何気なくテレビをつけると、ドキュメンタリーを放映していた。東日本大震災で被害を受けた三陸の釜石市で、『第九』の合唱をみんなで作り上げていこうという番組だったという。

「あのとき、実は体調ボロボロの状態だった。そんな中で、『第九』に力をもらったんです」

 もともと以前から滑ってみたいと思っていた音楽だった。だが「昨シーズンまでの自分だったら、とても表現しきれなかった。五輪、世界選手権という経験を乗り越えて成長したからこそ、チャレンジできるようになった音楽だと思う」と語った。

 後半の3フリップで片手をつくミスはあったものの、2度の4回転トウループを成功させ、感情をたっぷりこめて滑りきった。演技が終わると、全てを出し切ったというように苦しそうに顔をゆがめながらも、満場のスタンディングオベーションに応えた。

「このプログラムは自分の力を120%出し切らないと形にならない作品。練習でもすごくハードで、まして観客の前で演じるのは楽ではなかった。でも歓声を聞いて、全てが報われた気がしました」

 まだシーズンはじめとあって、全体的に転倒が続出した男子の試合だった。そんな中で、町田は世界銀メダリストに相応しい強く美しい演技を滑りきった。


頭角を現してきたジュニアたち。

 五輪シーズンの翌年は、新たな4年の始まりでもある。上のトップ選手たちが抜けて、次の世代を担う若手たちが頭角を現してくる時期なのである。この大会も、まさにそれを象徴するような結果となった。

 男子の2位は、19歳のジェイソン・ブラウン(米国)、そして3位にはまだ16歳の世界ジュニアチャンピオン、ナム・グエン(カナダ)が入った。特にグエンはブライアン・オーサーに師事していることもあり、今後の成長が注目される。

15歳ラジオノワ、初のGPタイトル。

 一方で女子は、15歳のエレナ・ラジオノワ(ロシア)が初のシニアGPタイトルを手にした。シニアデビューだった昨シーズンは、スケートアメリカで3位、NHK杯で2位だった。

「2位、3位と1位は気持ち的にまったく違う。できることはすべてやった。初のシニアGPタイトルが手に入ってすごく嬉しいです」と通訳を通してロシア語でコメント。ソチ五輪には出場できる年齢に達していないため出られなかったが、「キム・ヨナも浅田真央も、トリノ五輪には年齢のために出場できなかったけれど、その後五輪でメダルを手にした。私も希望を持って前向きに頑張りたいと思います」と語った。

 2位は17歳のエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)だった。今シーズンはフィンランディア杯、ネーベルホルン杯、ニース杯で優勝し、ここがすでに4戦目である。ソチ五輪代表を逃した彼女は、長年ジュニア時代にライバルだったソトニコワが金メダルを手にしたことで新たなモチベーションを得たのだろう。全体的に安定した演技で、2年ぶりにGP大会の表彰台に返り咲いた。

 3位は米国の19歳、グレイシー・ゴールド(米国)だった。SPでは彼女らしからぬスピンのミスがあり、フリーではコンビネーションジャンプの一つが重複の扱いでゼロカウントとなるなど、ケアレスミスがいくつか出た。

 唯一の日本女子代表として出場した21歳の今井遥は、SP8位、フリー7位で総合8位。フリーの「ジゼル」では彼女らしい可憐さをよく表現し、大きなミスなく最後まで演じきった。

厳しくなったジャンプのルール。

 今シーズンからジャンプに関するルールがいくつか改正された。

 これまでは3回転以上のジャンプにのみ適用されていた重複ペナルティ(同じ種類のジャンプを2度以上跳ぶことはできない)のルールが、2回転ジャンプにも適用されることになったのである。

 ゴールドはフリーで2トウループを3回跳んだため、後半の3回連続ジャンプが無効扱いになってしまった。

 ほかにもルッツの不正エッジは、ジャンプの基礎点そのものが低くなるなど、いくつかのルールが変更された。今後トップで競っていくためには、女子の場合は特にルッツを正確なエッジで跳ぶことができるかどうかが、これまで以上に重要な鍵となるだろう。

川口&スミルノフ、GP大会全タイトル制覇。

 ペアでは川口悠子&アレクサンドル・スミルノフ(ロシア)が、初のスケートアメリカタイトルを手にした。

 昨シーズンのはじめ、スミルノフが膝の靭帯を断裂するという大怪我で五輪出場を逃した彼らだが、今季はすでにネーベルホルン杯とここで2連勝し、快調なスタートを切っている。彼らは過去に他のGP5大会すべてのタイトルを手にしているので、これで6大会すべてを制したことになる。

「昨シーズンは、もしかしたら回復が間に合うかもしれないと最後まで諦めずに練習を欠かさなかった」という川口だが、スミルノフは結局膝の手術の回復に6カ月を要したという。フリーではスロウ4回転サルコウを成功させ、高い技術と表現力の両方を兼ね備えたベテランらしい演技だった。

 こうして今シーズンも、いよいよGPシリーズが開幕した。最終戦のNHK杯まで、12月にスペインのバルセロナで開催されるGPファイナル行きの切符をめぐって、熱い戦いが繰り広げられることだろう。来週はカナダのケロワナでスケートカナダが開催される。
http://number.bunshun.jp/articles/-/821967


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