18.「闇の喇叭」有栖川有栖 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

18冊目
「闇の喇叭」
有栖川有栖
理論社



平世21年の日本。

第二次世界大戦後、ソ連の支配下におかれた北海道は日本から独立。

北のスパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。

敵は外だけとはかぎらない。

地方の独立を叫ぶ組織や、徴兵忌避をする者もいる。

政府は国内外に監視の目を光らせ、警察は犯罪検挙率100%を目標に掲げる。

探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。

すべてを禁じられ、存在意義を否定された探偵に、何ができるのか。

何をすべきなのか。




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パラレル日本を舞台にした有栖川さんの新シリーズ作品です。



何が新シリーズかというと、江神二郎・火村英生に続く第3のシリーズ探偵・空閑純(そらしずじゅん)の物語が、ここから始まるのですよ。



まさか、3人目のシリーズ探偵が出てくるとは驚きでした。



だって、火村は兎も角、江神の物語なんて、結末を迎えられるか不安なくらい滞りまくりなんですもの!(おい)



というのは半分冗談ですけど、まさかYA(ヤングアダルト)小説として出版されたこの本が新シリーズの始まりになるとは、想定外でした。



で、内容の話ですが、やはり特徴的なのはその世界設定ですね。



占領された北海道がソ連の後ろ楯で独立し、日本という歴史的背景を持つ民族が初めて複数の国家に別れた特異な世界。



至近距離にある敵対国家の存在は、日本(本州以西の日本)の生活を緊張感あるものにしています。



国軍と徴兵制度の存在。

国家転覆を目論む北(北海道)のスパイや、国内の社会主義者たち。

規律を保つため犯罪検挙率100%を目指し、組織を強化している警察。

愚民化と中央集権化をもたらすために禁止された「探偵行為」。



そういう、日本が抱えている問題(もしくは以前抱えていた問題)を匂わせるものが多いこの世界を、あんまり片寄らず、基本的に両論併記で上手く表現してるなー、と思いました。



なるほど、そういう意味でのYAか、と。



ミステリー的な話をすると、何とも有栖川さんらしい尖った正統派トリックでした。



まあYAだけあって、グロさはなく、そこは「やっぱりちょっと抑えてますよね」と思わなくもないですが(笑)



何にせよ、ここから新たな物語が始まるわけです。



積読として鎮座している次巻・「真夜中の探偵」も早いこと読まないと、とか思いながらも、読めるのはいつになることやら…





【ちなみに一応補足】

YA(ヤングアダルト)とは、主にティーンエイジャー(13歳から19歳)を意味しているので、YA小説ってのは中高生向けの小説ってことになります。

まあ、明確にYAに向いているかどうかは別として、著者がYAに読んでもらいたいと思うような内容になっていることが多いように思います。