【偽巷説百物語(にせのこうせつひゃくものがたり)】
著・ネー極ブル彦
「往生際が悪うごぜえますよ、旦那」
背後から声が響く。
振り向くと白装束の男。
ひとり、佇んでいる。
「な、何のことだ」
かろうじて威厳を保ち乍(なが)ら、声を挙げる。
掠れた声。
咽喉(のど)が貼り付く。
酷く、渇いている。
男は私の声を聞くと、悲しそうに溜め息をひとつ洩らした。
「もう明白じゃありやせんか」
決め付けるような口調。
意味もなく気圧される。
「違う。これは・・・、そうではない」
反論の体すら成していない言葉が、思わず口を突く。
頭が回らない。
体の動きもぎこちなくなる。
「はじめのうちは、誰しもそう言うんでさぁ」
男は更に悲しげな顔になり、続ける。
「だがね、旦那。こればっかりは巡り合わせだ」
突き放すような目。
「ならねぇ時はどうやったってならねぇし、なる時はどれだけ用心し尽くしても、なっちまわぁ」
全てを諦めたような、その表情。
「しかし・・・、それならば、」
証しですかい。
後の先で切り返される。
折れそうな心を必死で支える。
「そ、そうだ。それほど言うのだ。無論証しはあるのであろうな」
そんなものは、あるはずはない。
私は誰にも喋ってはいない。
怪しまれるような素振りも、していない筈だ。
ぎらりと光る双眸。
続けて紡ぐ筈の言葉が、霧のように散る。
逃げ出したい。今すぐに。
振り向きもせず、脱兎の如く逃げ去りたい。
「あまり動くのは、お奨めしやせんぜ」
心を読んだかのように、男は囁く。
「それに、息がし辛いのじゃありやせんか。無理はしちゃいけねぇ」
自身でも気付いていなかった事実を指摘され、びくりとする。
そして、証しですかい。と再び呟いた。
「証しなんざ、旦那。あんたの顔にべったりと付いているじゃありやせんか」
ぞくりと悪寒がする。
右手で顔を拭うと、ぬるりとしたものが纏わり付く。
真逆(まさか)。真逆、本当に。
「観念しやしたか」
いつの間にか男は、右手に鈍く光る何かを握っていた。
どっと脂汗が湧き出る。
逃げたい。逃げ出したい。逃げなければ。
「逃げるのはお止しなせぇ」
強くはないが、身体を貫くような、鋭い声。
力が抜ける。
膝が笑う。
立って、居られなくなる。
「逃げちゃいけねぇ。先ずは、受け容れることが肝心だ。そこからでねぇと」
何も始まりやせん。
その声は、何故か優しげにも聞こえた。
「しかし、頑固なお人だ。これだけの石頭となりゃ、搦め手は効かねぇやな」
真正面から、ぶつけるしか無え。
男は徐(おもむろ)に、右手を掲げる。
もう、恐怖はない。
むしろ、穏やかな心地さえする。
「旦那、あんた」
りん。
澄んだ鈴の音が響く。
「風邪、ひいてやすね」
気が遠くなる。
「ゆっくり休みなせえ」
諾々と、その言葉に従いたくなる。
りん。
再び鈴の音。
「御行奉為」
此岸か彼岸か分からぬ淵で、そんな声が聞こえた気がした。
・・・・・・・・・・・・・・・
と言うワケで、風邪をひいたっぽいです。
鼻水がだくだく流れ、顔を拭うとぬるりとしています。
息もしにくいです。
頭の回転も悪くなっている気がします。
寒気もします。
関節も、若干痛いです。
白衣の天使(?)又市さんのお言葉通り、無理はせず、早めに休みたいと思います。
朝起きたら、治ってますように。
りん。
・・・・・・・・・・・・・・・
こんなこと書いてる暇があったらとっとと寝ろよ、という当然のご指摘は、甘んじて受け容れようと思います。