36冊目
「銀河不動産の超越」
森博嗣
主人公は大学を卒業したばかりの高橋君。
社長と事務員一人しかいない「銀河不動産」という小さな会社に就職してまもなく、あるお金持ちの夫人のため部屋を探すことになる。
何件か紹介した後、最後に案内したのは、言葉では表現しにくい奇妙な家。
とりあえずの特徴は広いこと。ちょっとした公民館やホールのように広く、しかも仕切りがない。天井も高く、小さいロフトのような二階がそなえつけてある。スカッシュができそう、とかアトリエなんじゃないか、とか、そんな想像ができるほど奇妙な家。
この物件を気に入り、契約することになった夫人だったのだが、「私が家主になるから、ここに住みなさいよ」と高橋に提案する。
突然のことにとまどう高橋だが、今住んでいるアパートと同額しか賃料は要らないと言われ、しかも職場にも近く静かな環境だったこともあり、申し出を受け、この奇妙な家で生活するようになる。
それから、高橋の周りには一風変わった人達が集い始めることになる。
同居人が増えたり減ったり、大きな家を大きな荷物が占領したり、そしてついに押しかけ女房まで…。
高橋、どうなる!?
う~ん、すごい。
森さんの作品(特にノンシリーズのもの)はとっぴな環境やキャラクターがよく登場するけど、これまでの作品よりは現実に近い話に見えて、でも非現実感も強くて、うーん、うまく表現しにくいです。
いそうでいない、ありそうだけどありえない、そんな現実に片足残したまんまバランスをとっているような物語で、しかも着地点が皆目わからないという宙ぶらりんな感じが、なぜか心地よい物語でした。
主人公の高橋君が、のんびりしているせいなんだろうけど、一人称で語られる文章からしてすでに非現実的で、いろいろ大変なことが起こっているのに、読み手のテンションを上げも下げもしない。なんていうと貶しているようですがそうではなく、すごいなぁ、と。
森さんの他の作品でも多少はある傾向ではあるんですが、その集大成というか、最高到達点のような不思議な文体でした。
最後のオチは逆に森作品っぽくなくてびっくり。いい意味で裏切られました。
短編映画かなんかになりそうなきれいな構成のお話でした。