書評#2 前巷説百物語 京極夏彦 | 町に出ず、書を読もう。

町に出ず、書を読もう。

物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

前巷説百物語/京極夏彦/角川書店

「救ったのじゃねぇ、俺は、一人殺しちまう図面しか引けなかったんだ」


百物語シリーズ第四作。だけど時系列は一番過去。一筋縄にはいかぬ厄介事を、妖怪という小道具を使い、虚を実に実を虚に見せた落とし処に納める御行の又市が、その仕事を始めるまでの経緯を語る今作。
時は江戸時代末期、場所は江戸。上方からヘマをして江戸に落ちてきた双六売りの又市と靄船の林蔵が関わり合うことになる損料屋『ゑんま屋』。今で言うレンタル業だが、レンタル代ではなく、貸した物の劣化分を店の『損』、つまり損料として戴くのが損料屋。しかしゑんま屋は物だけでなく人も知恵も力も貸す。ありとあらゆる浮世の損を金と引き換えに請け負うという裏の仕事も持っていた。
たまたま居合わせた又市は損料仕事を手伝うことになるのだが…。


とにかく又さんがかっこいい。これまでの作品の又市はどちらかといえば、酸いも苦いも噛み分けたオッサン的なリーダー的なイメージだったのだが、今作は年齢も精神的にも若いし仕事も下っ端。人死には少ない方がいいが幾人か死ぬのはしかたない、という損料仕事に反発し、人の死なない図面(計画)をたてる又市は周囲から「青臭い」なんて言われながらもより良い図面を引くため奔走する。
それは綺麗事ではなく『人が死んだという損は何をしても埋まらないから』という又市の考えから来ている。理不尽な現実に対抗することの出来るゑんま屋の仕事の中の理不尽さとも戦う又市。そして後々共に仕事をするおぎん・林蔵・文作・玉泉坊・小右衛門も登場するしちょい役で百介なんかも出てきて……あああああ、過去三作を再読したいっ!一気に読みたいっ!!
でも一冊一冊が分厚いからなぁ…。きっと休み一日使っても一日一冊が限度だろうなぁ。でも、きっと、近いうちにきっと読む!


まだ本当の黒幕は健在だし、治平とかも出てきてないし、生死不明で消えてしまったあの人も気になるし、きっと次回作が出ると思うのでそれまでには再読!再読っ!!