◇三番叟(さんばそう)◇ 

 「三番叟」表式舞の三番目に舞われ、叟とは翁の意味だそうです。この「三番叟」というのは、能の「翁」のなかで狂言方が受け持つ部分。「おおさえ おおさえ おお 喜びありや」この三番叟は五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈り舞う曲。まず、直面(ひためん=面をつけない)で「揉之段(もみのだん)」を舞う。次に黒式尉(こくしきじょう)の面をつけて鈴を鳴らして、種まきを表現する「鈴之段(すずのだん)」舞う。これは、萬斎でござる(野村萬斎さん著書)に書いてあるように、神に成り代わり五穀豊穣を祈る意味があるといいます。この「三番叟」は舞うという言葉より、「踏む」と言われるほど激しい足拍子の多い躍動感が溢れる神事ともいえる曲。また「三番叟」という大曲は、非常に格式の高い、神聖な儀式だそうで、昔は舞台でこの三番叟を舞う数日前には、「別火(べっか)」と言い、生活に使う火を別に分けて精進決済、女性を遠ざけるといった儀式があり、現在では昔ほど厳密ではなくなり、演じる当日の朝だけに限られるようになってきているそうです。 

 野村萬斎さんが、この「三番叟」を披いた(披く=一定の格式ある曲を初演すること)のは、17歳のとき。足拍子を高く鳴らすために練習したその踵(かかと)は、真っ青に内出血をして次の日には歩けなくなってしまうほどだったようです。野村萬斎さんいわく、この「三番叟」で狂言のおもしろさに目覚め、以後、稽古にも積極的に取り組むようになったとこの著書には書かれていました。萬斎さんにとっても、その他の狂言師の方にとっても「三番叟」は特別な大曲であるようです。また、萬斎さんの得意とするこの「三番叟」観たさに集まる観客も多いという。【余談】映画「陰陽師」の公開前、原作者の夢枕獏さんと野村萬斎さんの対談で「三番叟は我々狂言師の根源かもしれない」「あの三番叟がなければ、陰陽師はやれなかったんじゃないかな」と仰っています。確かに、陰陽師の舞がエンドクレジットで流れるそのシーン。一瞬跳んで着地(静止)するところなどは微塵のブレもなく、伝統芸能で培ってきた身体能力がなければ無理かもしれない。