(ブックレビュー)  あなたの知らない「どこかの山口」(原題:어딘가의 야마구치) | あなたの知らない韓国 ー歴史、文化、旅ー

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 今回は山口県在住の知人から紹介された本を紹介します。 

「어딘가의 야마구치」(どこかの山口)

 著者はソウル在住の韓国人ソンソン(송송)氏。韓国から最も近く、交流の深い山口県を舞台に書いたのが本書で、もちろん全て韓国語で書かれています。クラウドファウンディングで作った自費出版のようですが、読んでみるといろいろと考えさせる本でした。

 

 

 

 

 

  大阪に在住の小生が山口県に行ったのは、もう20年も前のこと。記憶もおぼろながら、いろんな歴史的事象が思い浮かびます。古代から大陸文化受容の前線基地で、弥生時代の土井ヶ浜遺跡や源平の古戦場である壇ノ浦、中世の大内氏の遺跡群、耳なし芳一の伝説、朝鮮通信使の寄港地など、歴史的故事にも事欠きません。

 

 でも本書で語られるのはそんな悠久の昔の話ではありません、山口県下各地を取材して 近代以降の歴史を主眼に書かれたのが本書です。でもこれはいわゆる通常の歴史紀行ではありません。山口県各地に残る在日韓国朝鮮人たちの痕跡が主体です。戦前、日本の朝鮮植民地支配は、形としては1945年8月15日に終わりました。しかしいろいろな事情で祖国に帰れなかった在日韓国朝鮮人たちが現在も日本各地に残っています。彼らは差別や貧困と闘い生き残りましたが、日本国内はもちろん、韓国でもその存在が十分に認識されているかどうか疑問です。そんな彼らの痕跡、生き様を山口県地域を中心に掘り起こしたのが本書です。

 

 山口は朝鮮半島から本州地域へ渡る時の関門です。本書は様々な写真を通して、山口県地域の状況、日本在住者というよりも、山口県在住者でさえどこまで認識しているのかわからない状況を掘り起こして行きます。

 

 内容は山口県全体の概観にはじまり、下関、宇部、防府、周南、光、柳井、岩国、萩、長門、山口と続き、山口の人々、朝鮮学校と続きます。

 

 その中には、半島からの移動手段であった関釜連絡船や、戦後、山口に残留した人々の劣悪な環境の集落、落盤で多くの行方不明者をだした炭鉱、塩田での強制労働、人間魚雷回天の製造拠点、米軍基地などあまり意識していなかった歴史遺産も数多く紹介されています。山口はいわゆる「維新回天」の地。幕末での山口も欠かせないので、下関での高杉晋作像、萩での松下村塾なども出ますが、話題の中心はあくまでも前者です。いわば知られざる山口だと言えます。

 

 日本というといまだに「単一民族国家」だなどという幻想を抱いている人も多いようです。でも本書での在日韓国朝鮮人はもちろん、それ以外のアジア系の人々、そしてアイヌや沖縄など、多様な文化背景の人々がおられます。互いに違いを認めて尊重し合うのが、自分にとっても他人にとっても住みやすい社会を作る一歩だと思います。本書はそのことを改めて認識させる一冊でした。