「公太、そろそろこの前話してたの教えろよ」
僕は楽しそうに雑誌を捲る公太に横やりを入れた。
公太は思い出したように目を見開き頷くと
「じゃあヒントあげるよ」
そう言ってポケットから小銭を取り出した。
「ヒント?」
「うん、これで柿ピー買ってきて、小さいパックのやつね」
突然渡された小銭と言っていることが理解できない僕は
公太を見たまま固まった。
いや、言ってる意味はわかる。これのどこがヒントなのかわからなかった。
僕の様子を見てか、公太はいいからいいからというように
目を閉じて僕を宥めるように手のひらを僕に向けて突き出した。
「いいから取りあえず行ってきて」
僕は何も言わずに立ち上がると時折揺れる電車の中を
売り子を探して歩き始めた。
五分足らずで公太に言われた柿ピーを買って戻ると
座ったキャリーバッグを頻りに揺らしながら公太達が待っていた。
健は僕らのやり取りを興味深そうに見ている。
「おつかいお疲れさまです!」
嬉しそうに言う公太。
これじゃただのパシリじゃないかと皮肉たっぷりに僕は言った。
飽きるほどの学校内で見てきた。あの光景と一緒だ。
「いい線行ってるね、けど少し違うんだな」
公太はそう言って僕に100円を差し出した。
「何これ?」
「おつかい料、報酬だよ」
「おつかい料?」
「俺たちがやるのはおつかいなの、こうやって報酬をもらうんだよ」
「「おつかい.com」そう言うことか!」
健は納得して頷いた。
「面白そうじゃん」
「だろ?」
盛り上がる2人を他所に何か腑に落ちないままの僕がいた。
東京に行ってまでパシリをやるというのか
最後の夏休みだと言うのに。
「はじめてのおつかいご苦労様」
不満そうな僕の手に100円玉を握らせ公太は奇麗な二重の垂れ目を
細くしながら言った。
僕の手に包まれた一枚の硬貨は夏の太陽に照らされ鈍く光っていた。
出来ればやりたくないと思ったちいさなおつかいが
この夏のいや、人生を変えることになるなんて
このとき僕は到底考えもしなかった。