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N.Y 小説・短編小説・詩集

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電車から降りると
田舎には無い独特の熱気が押し寄せてきた。
涼やかな熱さとは違い、熱気が体に纏わり付いてくる。
ホームを抜けた頃には既に体の至る箇所から
滝のような汗が噴き出していた。
排気ガス混じりの空気が鼻をつつく。
ホームを抜けると大都会のビルに阻まれ
逃げようの無い熱気とフライパンのように熱された
アスファルトからの照り返しで頭が回らなくなる程だ。
あれだけ憧れていた東京だったが
思わぬ先制攻撃に少しだけ嫌になった。
公太の先導で電車を乗り換える。
向かう場所は桜新町という場所らしい。
東京では乗り換えた電車は地下鉄というらしいが
僕らにしてみれば電車は電車だ。
着いた先は少し落ち着いた住宅街だった。
落ち着いたと言っても先ほどまで見ていた景色に比べればという意味で
僕らの地元では考えられないほどに発展している。
ビジネスビルが住宅ビルになっただけで
太陽の照り返しは相変わらず容赦ないが。
5分程歩いた先に今回の宿泊先になるマンションが見えてきた。
同じようなビルの中にひと際奇麗なそこは見ただけで高級だとわかった。
インターホンを鳴らすと
優しい声色の返事があった。
公太のおばさんのようだ。
「公太です」
「いらっしゃい、今開けるわね」
大きめの自動ドアを通ると
これまた大きすぎるほどのエレベーターに僕たち三人は乗り込んだ。
みるみるエレベーターの階数が上がっていく。
エレベーターから下りると
加代子、公太のおばさんは既にそこで待っていた。
「お久しぶりです」
「大きくなったわね」
声でイメージした通り育ちの良さそうなおばさまだ。
奇麗に巻いた髪に花柄のワンピースこれで齢50を超えているというのだから驚きだ。
30代と言っても通用するのではないだろうか。
降りた先で迷うかもしれないからと言うことでわざわざエレベーターまで
来てくれたらしい。
確かに周りを見渡すと同じような玄関が迷路のように並んでいる。
ふと目が合った僕らは会釈をすると
公太が思い出したように僕らの紹介を始めようとした。
「それは家に入ってからでいいわ、こっちよ」
案内された玄関に入ると
奇麗に整頓されたリビングが広がっていた。
窓の外には都内のビルがずらりと並んでいる。
なかなか見れないその景色に僕らは思わず見入ってしまった。
「おお、高え~」
健も興奮している。
ここで夏の生活が始めるのかと思うと公太に感謝しても仕切れないものがあった。
「そんなに珍しい?」
おばさんの言葉に挨拶がまだだったことを思い出した僕らは
振り返ると姿勢を正し、自己紹介を述べた。
「葉山 翔です!よろしくお願いします」
「山本 健です、これからよろしくお願いします」
「そんな固くならなくていいのよ、楽にして
熱かったでしょう?何か飲む?
お父さんは今出かけてるからお茶でもして待ちましょう」
高級そうな缶入りのクッキーとオレンジジュースを
出してもらった僕らはオレンジジュースを一気に飲み干した。
こんな状況でクッキーなんて食べたら既にない水分が完璧に乾涸びてしまう。
「そうとうのどか湧いてたのね」
おばさんは笑顔で立ち上がるとボトルごと持ってきて
好きなだけ飲みなさいと僕らに差し出した。
ほとんど満タンだったそれは瞬く間に空になってしまった。
ようやく喉が潤ったことで今度はお腹が空いてきた。
公太が先陣を切ってクッキーに手を伸ばすと
それに続くように僕らもクッキーに手を伸ばした。
嬉しそうに僕らを見るおばさんは
一気に大きな子供が3人出来た気分なのだろう。 
公太から聞いていた話だが
おばさんは子供が出来ない体で
一人男の子の養子を貰って育てていたらしいが
今は世界中を回っていて
たまに帰ってくるだけらしい。
「自由奔放」ぼくの憧れるそのものだった。
明確な目標が無い僕は何にも縛られず生きている
顔もしらないその人に憧れた。
公太が昔から海外の面白い話を饒舌に話していた理由はこれだったんだ。
公太が話していたことを思い出しながら
僕たちは他愛も無い学校の話や恋愛の話をして
気づくと日も沈みかけていた。
ガチャリ
「ただいま」
そう言ってリビングに入ってきた男は
かっちり黒のスーツで決め、髪も奇麗なオールバック、おじさんの修だ。
強面でいかにも仕事ができそうな雰囲気を醸し出している姿を見た僕と健は
加代子おばさんに挨拶した以上に背筋を伸ばして挨拶した。
一瞬返事が無くて焦った僕らだったが
すぐに笑い声とともに
「そう固くなるなこんな顔で緊張したか?」
修おじさんは笑いながら自分の顔を指差した。
「相変わらず小さい子には泣かれるけどな
君たちはそんな年じゃなかろう」
ネクタイを緩めながら修おじさんは自虐気味に言った。
自虐的なギャグが面白かったわけではない。
安心感から僕たちは笑った。
その後夕食をごちそうになった僕らは
東京の観光名所や修おじさんのおすすめを聞いた。
ビールを飲んでいたおじさんは先ほど以上に饒舌になり
時折親父ギャグを混ぜてくるが全く笑えないのが辛いところだ。
どうやら不動産の会社を経営しているらしく
窓からあそこからあそこまで俺のビルだと言われたときは
驚愕した。
今見ただけではただの強面の寒いおっさんなのに。
きっと仕事のときは最初に見た厳格な雰囲気なのだろう。
楽しい夕食の時間も終わり一息つくと
「さて、君らの住む場所に案内するよ」
そう言って修おじさんは立ち上がった
「家ですか?」
健のその言葉にはここじゃないんですか?という意味が隠れていたことは
間違いない。
「そうだ、ここだと何かと不便だからな、鍵も余ってないし
、君たちも夜は自分たちだけで騒げた方がいいだろう?」
確かに、修学旅行気分の僕たちはきっと夜な夜な騒ぎ倒すに決まっている。
おじさん達の邪魔にもなるし、3人で住めるなら好都合だ。
ぼくは窓の外を見てきっとあのマンションのどこだろうと息巻いた。
なるべく高い場所がいいな、そんな希望を抱きながら部屋を出た。