外に出るとすっかり日は落ちていたが道を照らす明かりの数は多く
田舎では考えられないくらい明るかった。
「悟のことは聞いたか?」
悟とは修おじさん達の養子の子だ。
僕らは目を合わせた。
「はい」
公太は前を歩くおじさんに並び声を上げて聞いた。
「さとにいいるんですか?」
修おじさんは少し考えて口を開いた。
「地球のどこかにはな」
残念そうに頭を下げると歩くペースを下げて再び僕らの横に並んだ。
公太も悟という人物に憧れているようだった。
「悟が使ってた場所だが2ヶ月前に掃除したから奇麗になっている
気兼ねなく使いなさい」
「ありがとうございます」
一体どんな場所だろう、僕と健は目を合わせて
声を出さずに喜んだ。
「一緒の場所に住んでなかったんだ」
独り言のように公太が言った。
「あいつは変なこだわりが多くてな
どうしてもここがいいって聞かなかったんだ」
修おじさんは昔のことを思い出しているようだった。
懐かしい思い出に浸っているようだがどこか悲しげな感じもした。
「ここだよ」
おじさんが足を止めたそこは
僕たちの予想を大きく裏切った。
僕が田舎で毎日のように見てきた小汚い
平屋の一軒家。
ひどく見慣れたような佇まいの家で
ここまで衝撃を受けるとは考えもしていなかった。
隣を見ると公太も健も同じことを思っているらしい。
僕は先ほどまで尊敬の念を抱いていた顔も知らない悟と言う人物を少し恨んだ。
高層ビルからの景色は一瞬で夢に消えたのだ。
僕らの様子を見かねてか
「どうした?不満か?」
おじさんが訪ねてきた。
「いえ、そんなこと無いです」
自分でもわかるほどに棒読みだった。
「住んでみるといい場所だぞ
電気も水道も通っているから好きに使いなさい
加代子のうまい飯が食いたいときはいつでも連絡しろ」
「ありがとうございます」
「鍵はこれな、高校最後の夏休み楽しめよ」
そう言って修おじさんは去っていった。
渡された鍵を見て考え直したが
こうやって家を提供してくれるだけでありがたいものだ。
僕たちは理想だけが先に行きすぎて不満を言っているだけだ。
「ありがとうございます」
僕らは去っていく修おじさんの背中に向かって叫んだ。
修おじさんは振り返りもせず左手を上げ
街灯に照らされた姿も少しずつ消えていった。
「さて」
公太は玄関の前に立つと深呼吸した。
「俺たちの家だー!」
大声で叫ぶと飛び跳ねながら僕らのほうへ飛んできた。
そうだここがこの夏の僕たちの家だ。
そう思うとテンションが上がった。
下宿先みたいでこっちの方が楽しそうだ。
「誰が鍵開けるよ」
健はそう言いながら拳を握りながら
前に出してきた。
ジャンケンの合図だ。
僕たちは何も言わずに健の誘いに乗った。
なんでだろう、ぼくらのジャンケンはいつも一回で決まる。
わずか数秒の戦いを制したのは僕だった。
僕は財宝を目の前にした盗賊の気分だった。
鍵を開けて古びたドアを引くと軋む音を立てながら開いていく。
僕は真っ暗の家の中で携帯の明かりを頼りに明かりのスイッチを探した。
「付けるぞ」
二人の返事が聞こえた。
スイッチを入れると
チカッチカッと数回点灯した後に明かりがつき部屋が映し出された。
「おい、2ヶ月前に掃除したって言ってたよね」
僕は振り返って確認した。
「確かに言ってた」
健は僕の横に歩みを進めながら言ったが目の前の荒れ果てた光景に
自分が今言っていることに自信が無いと言いたそいうな表情をしている。
「じゃあなんだよこれ」
僕らのいるその場所はおおよそ掃除をしたとは言いがたいほどに
ゴミで溢れ返っていた。
仮に僕が窃盗に入った家がこんな状態だったら幻滅してそのまま帰ってしまうだろう。
「掃除から始めないと」
玄関に腰を下ろしため息を一つついた僕たちは
一日の終わりに大変な仕事が舞い込んできたとひどく落胆した。
ただその中で公太一人だけが目を輝かせていた。
「違うよ、さとにいが帰ってきてたんだ」
