健は案外簡単に納得されたらしい。
真面目に高校生活送ってきたんだ、最後ぐらいと思われたのだろう。
夏休み初日。
僕たちは着替えを詰めた鞄を持って公太の家に集まった。
全員が田舎っぽさを消そうと精一杯のお洒落をして。
「じゃあ行くか東京に」
公太の合図で僕たちは駅へと向かった。
一人だと長く不安に感じてしまう道のりも
不思議なことに3人でいるとあっという間に着く。
夏休み初日ということもあり自由席はすぐに満席になった。
案の定2席しか取ることが出来なかった僕たちは
座ることを諦め、出入り口にキャリーバッグを置き腰掛けた。
何十時間このままなわけじゃない。
何より僕たちは若い。
これからの予定を3人で話していれば
時間が過ぎるのはあっという間だ。
生い茂った緑の景色が次第に無機質な色に変わっていく。
樹齢数百年を超える木よりも高い高層ビルが無数に現れ、消えて、現れて、また消える。
田舎育ちの僕たちにはどのビルも一緒に見えてしまう。
違いがわかるのはせいぜい東京タワーとスカイツリーぐらいだ。
「あれ、東京タワー」
公太が指差した先には灼熱の太陽に照らされた真っ赤なビルがそり立っていた。
ドラマなどで見るそれはライトアップされ、感動的な雰囲気で見るからこそ奇麗に見えるが
こうやって見ると赤く塗られた鉄の大きな骨組みにしか見えない。
健は携帯を取り出すと東京タワーの写真を撮りはじめた。
最近では携帯の加工技術で素人の写真でも見栄えは良くなる。
色調を変え、いかにもカメラマンが撮りそうな被写体を真似て撮った写真を
健は自慢げに見せてきた。
「いいじゃん」
加工されたそれを見て素直な感想を述べた。
それを聞いた健は満足そうに携帯に目を戻した。
どうやら彼女に送るらしい。
まだ付き合い始めの健は見るのが痛くなるほど惚気ている。
一目惚れの彼女は当初彼氏がいたが
それを奪っての略奪愛だ。
東京へ来ることに同意したのかは疑問だった。
もし僕が彼女のことを心配して健がやっぱり行かないなんて言い出したら困るので
そのことには触れなかったが、不思議だ。
「着いたら何からしようか?」
公太は東京観光の雑誌を眺めながら聞いてきた。
「浅草行って、大江戸温泉行って、原宿でクレープ食べて・・・」
頭で思いつくだけ口に出してみたが考えているふりしても
思いつくのはたいしたことではない。
「俺ら東京人になっちゃうかもな」
何気なく公太は口走ったが、東京の人混みは
まだ色の無い僕たちを飲み込んで何色に変えるのだろう。