富野由悠季の世界 | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

 兵庫県立美術館で開催中の「富野由悠季の世界」に行って来ました。

 

 

 富野由悠季氏はガンダムを作った人。回顧展は富野氏の幼少時代から始まります。

 

 

 昭和16年(1941)神奈川県小田原市生まれ。父親は軍需工場に勤め、戦闘パイロットが着用する与圧服など最新技術の開発をしていました。

 

 

 幼い頃から宇宙やSF、兵器・戦争に関心を持っていた富野少年。それらの知識がロボットアニメの原点になったのです。

 

 

 日大芸術学部映画学科卒業後、手塚治虫率いるアニメ制作会社「虫プロ」に入社。虫プロでは演出を担当し、鉄腕アトムの制作などに関わりました。

 

 

 昭和47年(1972)「海のトリトン」で監督デビュー。「勇者ライディーン(1975-76)」や「無敵超人ザンボット3(1977-78)」の監督も務めています。

 

 

 この頃「宇宙戦艦ヤマト(1974-75)」が10〜20代の若者に支持され、アニメは子供が見るものという常識が覆された時期でもありました。

 

 

 ターゲットを中高生に絞り、十五少年漂流記から着想を得て誕生した「機動戦士ガンダム(1979-80)」。宇宙船に乗り込んだ少年少女が宇宙戦争の中で協力しながら生き延び、成長するという希望に満ちた物語です。

 

 

 富野氏の代表作とも言える作品ですが、意外にも低視聴率で打ち切られ、熱狂的なファンの要望により、映画版が公開されたとの事。「ガンプラ」と呼ばれるプラモデル人気の高まりとともに、社会現象とも言えるブームが巻き起こったのです。

 

 

 同時期に放映された「伝説巨神イデオン(1980-81)」は、宇宙に進出した2つの種族が不幸な出会いを果たし、無限のエネルギー「イデ」を巡って誤解を重ねて泥沼の戦いを続けるという物語。

 

 

 これも打ち切りで、ファンの要望により劇場版が上映されたそう。登場人物全員が次々に壮絶な死を迎えるという残酷な結末がつけ加えられました。

 

 

 女兄弟ばかりの家ではまず見られる事はなかったロボットアニメ。当時ガンダムはやんちゃな男の子が見るものというイメージがありました。

 

 

 彼らが見ていたのは恐らく「機動戦士Zガンダム(1985-86)」「機動戦士ガンダムZZ(1986-87)」「機動戦士ガンダム逆襲のシャア(1988)」。主人公アムロ・レイとそのライバル、シャア・アズナブルの戦いに胸を躍らせていたことでしょう。

 

 

 高校時代は「機動戦士ガンダムF91(1991)」「機動戦士ガンダムV5(1993-94)」。進学校でガンダムが話題になった事はありませんが、隠れファンはいたかもしれません。

 

 

 F91とV5は宇宙に憧れながらも争いを避けることのできない人間の本性と、家族と戦争をテーマにした作品です。

 

 

 カラオケでアニソンをバンバン歌う人、遠い未来や宇宙の話をする人、ロボット制作を生業にしていた人など。過去に出会ったガンダムファンだったかもしれない人たちの顔が次々に思い浮かびました。

 

 

 ガンダムV5以降、精神的疲労によって一線を退いていた富野氏が5年ぶりに制作したテレビアニメが「ブレンパワード(1998)」。それまでの殺伐とした描写や残酷な描写が極力抑えられ、美しい自然を基調にした作風が特徴です。

 

 

 その流れを引き継ぎ、初代ガンダム放映から20年という節目の年に「∀ガンダム(1999-2000)」が放映されました。∀(ターンエー)とは、数学などで使われる全てを意味する記号。∀で過去の作品を包括して原点に帰ったのです。

 

 

 で語られる人類と科学技術や文明との関わりという壮大なテーマは、現在進行中の最新作「ガンダムGのレコンギスタ(2014-15)」へと引き継がれているという所で回顧展は終わりました。

 

 

 富野氏は自身の作品を世の中のしくみに疑問を持つ未来志向の若者のために作ったものであり、いい年した大人が見るものではないと言っています。

 

 

 しかし今やガンダム世代は親になり、子供と一緒にアニメを見る時代。新しいガンダムは穏やかで以前のような激しさは無く、現代社会の風潮を反映しているように思えました。

 

 

 回顧展はガンダム関連が7割、そうでないものが3割。展示物が多いので3割でも結構な量です。

 

 

 「無敵鋼人ダイターン3(1978-79)」「戦闘メカ ザブングル(1982-83)」「OVERMANキングゲイナー(2002-03)」は冒険活劇の王道を行く作品。

 

 

 「聖戦士ダンバイン(1983-84)」「重戦機エルガイム(1984-85)」「バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼(1995-97)」「リーンの翼(2005-06)」は架空の異世界を舞台にした作品。

 

 

 「しあわせの王子(1974)」「ラ・セーヌの星(1975)」「闇夜の時代劇(1995)」は、富野氏の作品の中では異色のもの。この分野が不得手なのは、抜粋の映像を見ただけで分かりました。

 

 

 富野氏直筆の企画書や絵コンテ、映像など全部見ていると時間が足りなくなります。皆途中から見るのも面倒になったようで、前半は人の流れがゆっくりでしたが、後半はかなり速くなりました。

 

 

 私も途中から解説と映像に絞りましたが、6時間かかりました。これから行く人は見るものを絞りましょう。美術館は飲食厳禁&再入場不可。飲まず食わずで6時間。とても疲れます。